“Of course, but”を常套句にする

 これは、私が日々取り組んでいる、グローバル・ビジネスの交渉でも同じことだ。
 交渉にかかわるあらゆる「事実」を把握したうえで、相手になりきって、それらの「事実」が相手にはどう見えるかを熟考。そして、相手にとって「最も有利な事実」(こちらにとっては「最も不利な事実」)を見出すのだ。そして、自分にとって「最も不利な事実」を前提として、相手を説得するロジックを組み立てる。これができれば、相手を凌駕することができるのだ。

 だから、私は交渉で「Of course, but」という言葉をよく使う。「もちろん(Of course)」という言葉のあとに、自分にとって「最も不利な事実」を述べたうえで、「しかし(But)」と続けて、それを凌駕する「事実」を示したり、ロジックを展開するわけだ。

 自分にとって都合のいい事実だけを集めて主張しても、「最も不利な事実」を突きつけられればひとたまりもない。交渉に勝つためには、「最も不利な事実」を出発点として、自分のロジックを構築しなければならないのだ。そして、自分にとって「最も不利な事実」を見極めるためには、相手になりきって、「事実」を見つめる必要があるのだ。

「ハーバード・ロースクール」で学んだ交渉術

 このように、交渉で重要なのは「相手になりきって考える」ことだ。
 言い換えれば、ひとつのものの見方にとらわれず、自在に視点を切り替えるスキルと言ってもいいだろう。そして、ハーバード・ロースクールでは、このスキルを徹底的に鍛えられた。

 授業では、過去の判決をもとに、教授が次々に学生を指名して、「君が原告なら、どんな主張をする?」などと質問。回答が終わったら、即座に、同じ学生に「では、君が被告なら、その主張にどう反論する?」などと尋ねるのだ。こうして、学生が原告と被告の双方のものの見方ができるように訓練されるわけだ。

 これが、私の弁護士としての仕事を根底で支えてくれている。「自在に視点を切り替えるスキル」「相手になりきって考えるスキル」が、交渉や訴訟では決定的に重要だからだ。
 意外に思われる方もいるかもしれないが、ハーバード・ロースクールでは、法律の条文そのものについてはほとんど学ばない。アメリカは州法が定められているため、どの州の弁護士になるかで学ぶ法律が異なるからだ。だからこそ、交渉・訴訟の専門家である弁護士の本質的な能力開発に力を注いでいるのだ。

 そして、このような訓練はどこでもできる。
 私がおすすめしたいのは、職場でのロールプレイングだ。取引先との交渉案件が生じたときに、チームのなかで「自社の交渉担当者」と「取引先の交渉担当者」に分かれて、模擬交渉をしてみるのだ。二度目は「自社の交渉担当者」と「取引先の交渉担当者」を交代してみてもいいだろう。そんな訓練をすれば、必ず、「相手になりきって考えるスキル」が磨かれ、交渉力が飛躍的に向上するはずだ。