河口から、上流の最初の一滴までさかのぼるという企画だったのですが、奥多摩を超えたあたりで、「くもじい」という空を飛んでいる設定の登場キャラクターが、もうひとりのキャラクター「くもみ」にしゃべりかける、

「おい、くもみ、あのデイリーマートの先はコンビニがない。携帯の充電器とか大丈夫か?」

という台詞を書きました。

些細な台詞かもしれませんが、これは実際に取材をしたディレクターにしか書けない台詞です。実際に取材に行かずにナレーションを書くと、見える景色をそのまま台詞にし、「さあ、どんどん山奥に入っていくぞ」くらいしか思い浮かばないと思います。

しかし、それでは、ぜんぜん心に響く言葉にもならないし、映像に見える以上のストーリーが描けていません。携帯の充電器の話は、まさに自分が地上からこの辺り一帯を取材して感じたことを、空を飛ぶくもじいの口を借りて語らせたことです。

この先に行ったら、都会的なものは一切なくなる。そして、引き返すのもひと苦労である。この先に進むなら、必要なものはすべて買いためて進む覚悟が必要。それほどの秘境に入っていくということを、具体的なイメージがわくように伝えようとしました。

こうした「メッセージ性」が強かったり、「ストーリー」としての精度が高い番組には、まずは人数以上に大切な、熱狂的なファンがついてくれます。

すると、この『空から日本を見てみよう』や『吉木りさに怒られたい』もそうですが、DVD化や書籍化など、さらなるビジネスの展開につながることにもなります。

まわりを見回して、「誰よりも、少しだけ頑張ってるな」という分野を1つ作れたら、それを1つずつ増やしていくと、なお良いです。

ぼくの場合は、脚本や台本だけでなく、「カメラ」も、どんなディレクターよりも回すようにしました。

『世界ナゼそこに?日本人』という番組は、毎回1つのロケVTRが30~50分を超える骨太のVTRを作れる番組です。しかも、ロケ部分にタレントを使わないので、ディレクターショーの色彩が強い番組です。担当ディレクターとして、ソロモン諸島、イラン、ドミニカ共和国、ラオス、ペルーなどなど多くの海外を取材し、そこに住む日本人を撮影しました。

ほかのディレクターは基本的にカメラマンを同行させていましたが、ぼくはすべて自分だけで撮影するように心がけていました。『空から日本を見てみよう』時代も、そのほかの番組時代でも同じです。

プロのカメラマンには負けるかもしれませんが、少なくともディレクターの中では圧倒的に「画心」にこだわり、「構図」を大切にする演出家になろうと思ったからです。

勉強のためさまざまな写真集を大量に買い集めてきましたし、風景をよりかっこよく撮影するために、TBSの『THE・世界遺産』と、NHKの『小さな旅』は毎週録画して、徹底的に研究していました。

その結果、どんなメリットが生まれるか。
それは圧倒的に「意味の深い画(え)」が撮れます。

カメラマンさんは、美的センスや、構図については抜群にすぐれています。しかし、その瞬間瞬間において、すべての演出意図を理解しているわけではありません。優秀なカメラマンさんは、かなり高いレベルでそれを察してくれますが、すべてを察するのは不可能ですし、こちらからすべてを説明するのも、やっぱり不可能です。

ここで、カメラが捉える動画のパワーを、「美しさ」と「画の持つ意味」の、極めて単純化した2つに分解するとします。

図で説明してみます。

動画のパワーを比較

仮に、カメラマンさんの撮った画が、図1のようになるとします。
そして、普通のディレクターがカメラでとると、図2のようになるとします。

やはり、美しさはカメラマンさんが上手です。しかし、あくまで「ディレクターの演出意図に近づけて」という意味ではありますが、画にもたせる1カットずつの意味は、ディレクターのほうが追求できるのは間違いありません。

ならば、おのずと、こうなります。

「ディレクターが美しさを追求すれば、より強い画になるはずだ」

ここまで理解しておいて、チャレンジしない理由がどこにあるのでしょう。カメラマンさんに及ばずとも、せめて「美しさ 6点」を目指せばいいだけの話です。

すると、カメラを回しまくって、「画心」を身につけたディレクターが作る映像は、図3のように、美しさと深みをあわせ持つことになります。

もちろん逆も然りです。カメラマンさんが徹底的に演出も学んでしまう、という手もあります。そうすれば、見たことないほど、映像美を追求した作品が生まれるはずです。

そうなると、どうなるか。
スベらなくなるのです。

一つひとつの「画」が、確実にパワーアップするのです。このパワーを1カットずつ積み上げていくと、1つの番組で数十、もしくは数百カットがパワーアップし、何十点も強くなるのです。

そうすると、本来の取材対象が弱いなどの事情があっても、VTR全体のクオリティは高くなる。だから、「極めてスベりにくくなる」のです。

これは、わかりやすくいうと、新海誠さんの映画の力に似ているかもしれません。

新海さんの映画は、ストーリーもいいかもしれませんが、もう圧倒的に映像がきれいなんです。だから、スベりにくいんだと思います。ストーリーとかどうでもいいんです、もう。映像をボーッと見ているだけで幸せになれるんです。

『秒速5センチメートル』と『君の名は。』は、ストーリーもぐっときたの覚えてるんですが、『言の葉の庭』とか、ストーリー覚えてないです。でも、きれいだから、それでもいいんです。

テレビも、これと一緒です。新海誠さんの映像ほど綺麗に描けとは思いませんが、誰よりもカメラにこだわる演出家になると、スベりにくくなる。もっと具体的に言語化すれば、より物事の魅力を引き出し、視聴者を魅了するVTRを作れるようになるのです。

これが、まずは何か1つでも「人の1.5倍」の努力をすればよいという意味と、その効果です。