「借入金がどんどん増えている割に、売上高はさほど増えていません。どういうことですか?」
「この5年間で3店舗増やしましたが、どの店舗も売上が厳しいのです」
「そもそも、なぜ増やしたのですか?」
「なぜって、売上高を伸ばすためです」
「ではなぜ、売上高を伸ばそうとするのですか?」
「それは……。利益を増やすため、ですかね……」
「社長、店舗を増やしたからって、売上高や利益が簡単に増えるわけありませんよ。この5年間で、借入金がどんどん増えているのが見えないのですか。資金繰りが厳しくなるのは当然ですよ」

 経営状況を改善したいという気持ちはわかります。しかし、その改善の努力の方向を誤ると、事態はどんどん悪化していきます。

 営業拠点を増やせば売上高が増えたのは、日本の経済が右肩上がりの時代です。そんな時代は遠い過去の話なのに、まだその成功体験を基に、誤った判断に陥っているのです。

 やみくもに売上を拡大しようとすると、どうなるでしょうか?

 小売・外食・サービス業であれば、店舗や施設を増やします。メーカーであれば、営業所を増やし、設備投資を増やします。すると、自己資金でまかなわない限り、借入金が増えます。

 思うように売上高が伸びればまだいいですが、この時代、そんな思うようにはいきません。

 借入金が増えれば、返済も増えます。しかし、返済資金が足りません

 銀行はカネ余りの時代です。すぐにすり寄ってきます。

「そういうことでしたら、短期でお貸ししますよ」と銀行から言われた社長はひと安心し、ますます借入金が増えていくのです。助かったという意識があるので、金利など、条件交渉は一切しません。銀行に言われるがままです。

 借入金がさらに増えれば、支払う金利も増えます。事態の悪化に気づくのは、経理担当者がにっちもさっちもいかなくなり、「社長、資金繰りをどうすればいいですか?」と言ってきたときです。

 そこでようやく、社長は事の重大さを知り、青ざめるのです。