何よりもまず、優秀なトップがデータに基づいて開発の意思決定を下しても、市場のニーズはすぐに移り変わってしまう。タイミングが合わなければ、その商品が売れるとも限らない。
また海外では、新たな商品コンセプトはKickstarterなどのクラウドファンディングサイトで、次々と出されるのがあたりまえになりつつある。このスピード感のなかでは、社内で承認を得ているうちに「後追い」になってしまうのだ。
イシュー・ドリブン型が限界を迎えているのは、商品開発の現場だけではない。
マネジメント層が情報を集約してゴールを設定したり、戦略を立案したりしながら、ヒト・モノ・カネを動かしていくというモデル自体が、うまくいかなくなっているのである。
産業革命から現代に至るまでのヒエラルキー型の企業組織は、「科学的管理法の父」と呼ばれる経営学者フレデリック・テイラーの「経営管理」という概念を基礎にしている。
テイラーが重視したのは、生産ゴールを設定し、いかにして誰でもそのゴールを達成できるようにするかということだった。まさに「カイゼン」に典型的に見られるような考え方である。これがさらに拡張された結果が、いわゆる「戦略思考」に見られるモデル、つまり、いかにしてトップに現場の情報を集約し、最適な意思決定を下させるかという考え方である。
しかし、これを前提とする限り、「情報集約」→「合意形成」→「意思決定」→「伝達」→「リソース投下」→「現場の実行」という具合に、いくつもの中間プロセスが必要になる。このマネジメント・モデルでは、もはや時代の変化スピードにはとてもついていけない。
情報を集めて、商品をリリースするまでのあいだに、マーケットのニーズが変質するといったことも、もはや決して珍しくはない。もはや「経営管理」という考え方が、成り立たなくなりつつあるのだ。
こうした流れを受け、ロンドン・ビジネススクールの経営学者ゲイリー・ハメルは、今後の企業経営陣の課題は「マネジメント・イノベーション」になると語っている。
つまり、従来の階層型組織が持っている欠点を取り除き、「個人」が自律的に戦略立案や意思決定を行う分散型組織へのシフトを、経営トップらが真剣に考えていかねばならないというのだ。
これをさらに推し進めるなら、「唯一の明確なビジョンをカリスマ社長が提示し、社員たち全員がその達成を目指して尽力する」という、いわゆるトップダウン型のビジョン経営すらも、時代にはそぐわなくなってくるだろう。