むしろ、経営者はごくゆるやかな不変のミッションだけを提示しておき、あとはそこに集った個人やパートナー企業が思い思いにそれぞれのビジョン(妄想)をミッションの価値観を守る範囲で実現していく、いわゆる「ティール組織」が望ましい。
不要な階層性を取り去り、個人がフラットに価値を生む「場」をつくる自律分散型の組織こそが、21世紀のビジネスの勝者となるのかもしれない。
今回は、ソニー時代の「顧客視点による商品開発プロセス導入」の失敗談を書いたが、その背景には、同社の「ヤミ研」カルチャーがあったことも忘れてはならないだろう。
「本当にやりたい大事なプロジェクトは、机の下で隠れて勝手にやれ!」「上司は理解してくれないかもしれないぞ。盛田(昭夫・名誉会長)さんが来たときに直接見せろ!」――かつてのソニーでは、そんなふうに先輩がアドバイスすることすらあったという。
創業者の一人・井深大が打ち出した「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」(同社『設立趣意書』より)という文言のとおり、ソニーはもともと、ある種の「ティール的な組織文化」を持っていたのである。
同社在籍中、僕は以前の失敗の経験を踏まえ、「理想工場」をボトムアップで再興する全社プロジェクト「Sony Seed Acceleration Program」の立ち上げに関わった。
このプロジェクトの裏には、「分散型組織によるマネジメント・イノベーション」を再現しようとする設計思想があった。
いちいち細かなプロセス管理をするより、社員の自律性を大事にしたプログラムのほうが長続きするし、結果的にうまく広がる――そんな洞察は、やはり同社にも息づいている。公平を期して、ソニーのこうした素地や動きについても補足しておきたい。
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さて、今回は「なぜ妄想(ビジョン)が必要なのか?」について、主にビジネス環境の変化という視点でお伝えしてきた。
僕たちの思考に駆動力を与えてくれる妄想を「引き出す」には、どんなことが必要なのだろうか?