志望校選びは株式投資と同じ 

 いっぽうで、学校の様相も親世代とは様変わりしている。渋谷教育学園や広尾学園、三田国際学園や開智日本橋など、女子校が共学化されたことで偏差値が一気にあがり、最先端のカリキュラムで難関校へと躍進するケースは増えている。学校自らが改革を断行し、受験生の保護者から熱烈な支持を得るケースは多く、富永氏のような塾の経営者というプロの立場でも、こうした躍進タイプの学校の動向は完全には読みにくい

 例えば中学が国際バカロレアの認定校となった開智日本橋では今年、応募者が全日程で60%も増加した。これは富永氏らの予想をはるかに超えた数字で、「保護者がいかに学校の中身”をよく調べ抜いて選んでいるかがわかる好事例でした」という。

「学校は3年で変わる」とは、改革屋と呼ばれる校長の一人が語った言葉だ。だからこそ子どもの学校選びに際しては、大人は子どもに古い価値観を押し付けてはいけない、と富永氏は念を押す。

「今の中高一貫校には、偏差値だけでは測れない魅力のある学校が本当にたくさんあります。今、偏差値が40の学校が60に化けることもあるかもしれないし、学校のブランド力だけに頼ってあぐらをかいていれば簡単にひっくりかえされます。

 学校選びは株式投資と似ています。証券会社に全てお任せではうまくいかないのと同様、学校選びも塾に頼らず、親子で足を運んで自分たちの目で確かめてみてください。そして親の先入観が子供の成長の芽を摘んでしまわないよう、偏差値だけで決めずに、いろんな偏差値帯の学校も見に行ってください。校風も問題傾向も、各偏差値帯に似たような学校が必ず見つかります。

 また、同じ学校でも、コースによってカリキュラムも雰囲気も異なります。学校めぐりだけは早い段階からたっぷりと時間をかけて、わが子の教育環境にどのようなものがふさわしいのかをじっくり探してみてください」

男の子の学力の伸ばし方』『女の子の学力の伸ばし方』の著者である富永氏によると、学校選びには性別や性格によって注意が必要だという。男の子タイプは学校のポジティブなところ、自分にとって楽しいと思えるところに意識が向きやすいが、女の子はトイレが古いとか通学路が気に入らないとか、在校生の髪型やスカートの丈の長さまで、細かいところまでネガティブチェックをする傾向があるそうだ。

男の子の場合、親が先にいくつか良い学校をピックアップし、その中から選ばせるという親主導の選び方でも問題は起こりにくいのですが、女の子には本人の納得感が絶対に不可欠です。女の子の場合は気になるところは全て一緒に見に行き、その中で本人が気に入ったところから一緒に選ぶという選び方のほうがよいでしょう」

親世代の固定概念を変えよう

 何が成功か。もはや最終学歴だけでは安泰な人生を送れる保障はない。学校選びを進学実績だけで判断できる時代ではなくなってきていることに親も気づき始めている。

「実際に学校を見学して『価値観が変わった』と言ってくる保護者は年々増えています。VAMOSに入会したばかりの頃は『僕の時代はこの学校はこんなひどいレベルだった』なんて言っていたお父さんが、2年後には全く違う印象を持っていたりするものです。百聞は一見に如かずです。親にも固定概念を捨てる勇気が必要です」

 VAMOSの使命は、生徒が一人でも多く志望校に合格することだが、それと同じくらい大切なのは、中学受験を通じて、生徒一人ひとりが何をすべきかを自分の頭で考え、動ける力を身につけてもらうことだと富永氏はいう。

「受験が終わってどの学校に決まっても、そこに楽しい未来が必ず待っていると子どもたちにはいい続けています。中学受験は最後まで楽しく終わってほしい。だから親御さんにも、お子さんが受験した学校に優劣をつけず、『全部いい学校だから全部受かっちゃったら選べないよね』『受ける学校全部第一志望』というスタンスを共有してほしいと思っています」

 親がじっくり見るべきなのは偏差値表ではなく、わが子そのものだ。生まれ持ったタイプを発揮しながらも、その性格は十人十色。大事なことは、わが子を枠にはめず、柔軟にその子に合った方法を選んでやれば自然に伸びて行くということ。伸びれば自信ができる。自信ができれば、勉強がワクワクする楽しい存在になる。子どものタイプを理解しつつ、わが子にじっくり向き合う…そんな“原点”に帰ることが、中学受験でも親子とも幸せになれる1番の近道のようだ。

全3回でお届けしてきた富永氏へのインタビュー企画。第1弾(3/22公開)では「VAMOSの指導方針」、第2弾(3/23公開)では「中学受験のトレンド」について、そして第3弾では「家庭で気を付けるべきこと」について、詳しく伺った。