というのも、心雑音によって早期発見可能な心疾患には、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁膜症があるが、なかでも大動脈弁閉鎖不全症については近年、カテーテルで行う「TAVI(タビ)」と呼ばれる開胸手術なしの治療法が普及し、早期発見さえできれば大事に至らずに済むようになっている。

循環器内科医で医療系ベンチャーの代表も務める小川晋平氏循環器内科医で医療系ベンチャーの代表も務める小川晋平氏

 大動脈弁狭窄症は75歳以上の12%が発症するという論文があり、日本における患者数は100万人と推定されているので、聴診で早期発見できれば、助かる人の数は飛躍的に増えるだろう。

 聴診器の役割は非常に重大なのだが、現場の医師たち、特に集団健診を診ている医師の間では、「心疾患の可能性を十分にスクリーニングするのは難しい」という声が以前からあった。

 疾患の徴候を示す雑音は極めて小さい場合があり、聴き落としやすい。体位や呼吸でも変動するので、患者も医師も軽く呼気を止め、耳を澄まして聴かなくてはならない。集団健診では、一度に、しかも短時間で大勢を診なくてはならないため、3分診療どころではないスピーディさを求められる。保健所の一角をパーティションで区切っただけの空間では周囲の雑音に干渉される可能性も高い、等々、現場の環境はなかなか厳しい。

 また、企業の出張健診では、仕事を中断してやってきた従業員は気持ちが急いており、自覚症状もないため、「早く終わらせてくださいよ」と露骨に迷惑がられることも珍しくない。病院で対面する、具合が悪くなって受診した患者とは、明らかに協力の姿勢が異なるのだ。

 若年層の健診対象者に、心疾患の人がいる確率は1%以下。

 1人の異常も聞きもらさぬよう集中力を持続させるのは、決して簡単ではないはずだ。だからだろう。

「『短時間で、騒音に干渉されず、客観的に、医師の診断をアシストできる聴診器を開発したい』と、周囲のドクターに話したところ、多くの人が賛成してくれました」