80年代生まれの医師と看護師が語る、医療現場で教えられた「これからの命の終わりとの向き合い方」西智弘(にし・ともひろ)
腫瘍内科医、緩和ケア医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医
川崎市立井田病院かわさき総合ケアセンター腫瘍内科/緩和ケア内科。2005年北海道大学卒。室蘭日鋼記念病院で家庭医療を中心に初期研修後、川崎市立井田病院で総合内科/緩和ケアを研修。その後2009年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科を研修。2012年から現職。現在、腫瘍内科の業務を中心に、緩和ケアチーム、在宅医療にも関わる。 著書に、『緩和ケアの壁にぶつかったら読む本』(中外医学社)、『「残された時間」を告げるとき』(青海社)がある。

西医療ミスなんじゃないかと言われるので、「そうではありません。これは普通の自然な亡くなり方です。亡くなる前日まで自分の足でトイレに行くことができ、尊厳を損なうこともなく、ご飯も食べることができ、苦痛もなく亡くなられた。これを逆にどう思いますか」と尋ねました。

 すると、「苦痛がなくてよかったと思います」と言われたので、そうですよね、とまとまりました。

中山想像しづらいというのがあるのでしょうね。テレビや映画やドラマでは、やはり最期は苦しそうな表情をしていたり、痛みで叫んだりしていて、30年前はそういうことも確かにあったと聞いていますから、だんだん段階的に悪くなっていって最後を迎えるというのがみなさんの頭の中にあるのではないでしょうか。
 今は西先生が言われるように、緩和ケアが格段に向上したおかげで、痛みや苦痛は押さえ込んで比較的元気に見える状態で最期に着地するということができるようになってきているんですよね。それがまだ認知されていないのではないでしょうか。

西そうですよね。

中山亡くなるということ、亡くなる前のいわゆる終末期と呼ばれる状態は、みなさんが思うほど悲惨なものでも苦しいものでもありません。痛みはかなりの確率で抑え込めるものなので、あまり恐ろしいことは想像しなくていいというようなことをネットの記事に書いたら、すごく反響をいただいたことがあります。
 9割の方は安心した、楽になれた、ホッとしたと言ってくださいましたが、1割の方からは、いや私の親の時は違った、私の兄弟の時は違ったと、そんなことに騙されないという激しい反発の声がありました。しかし、それもおそらくその人たちにとっての事実だったのだろうと思います。まだまだ、良くなっていく過程にあるということなのでしょう。

後閑そうですね。でも、昔に比べれば、死ぬ直前までそこまで苦しむ人は見なくなりましたね。最期は本当に穏やかに、まあ医師の技術にもよるのでしょうが、昔よりよくなってきましたよね。

家族で「人生会議」をしよう

【人生会議】とは……
厚生労働省が人生最期の医療やケアについて話し合うACP(アドバンス・ケア・プランニング)の愛称を公募し、「人生会議」に決定しました。

「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」とは、もしもの時のために人生最期の段階における医療やケアについて健康な時から考える機会を作り、周囲の信頼する人たちと繰り返し話し合って共有する取り組みのことです。

西本人はどういうふうに生きていきたいのかということを家族の中でもよく話し合っておいてほしいです。その上で、それは家族が本人にしてほしいことなのか、本人がしたいと思っていることなのか、整理しておくといいでしょう。これを結構混同している人がいたりしますから。
 たとえば、積極的に治療してくださいということを娘さんが医師に言ったとします。しかし、患者さん本人がどう思っているのかというと、そこは話し合いがなされてなかったりするものです。
 ご本人はどちらでもいいと言うのですが、娘がそう言うのなら、ということに落ち着くわけです。ここで「でも、つらい思いをするのはあなたなんですよ」と伝えます。「それでも娘のためにやります」と言うなら、それはその人の生き方ですが、本当にそれで大丈夫だろうかと思うところはあります。
 家族だけでの話し合いでは言いにくいということがあるのなら、医療者が入って情報を整理しましょうか、とするとうまくいくパターンもあります。家族だからお互いのことはわかっているなんて思わないでください。
 また、自分の感情、あるいは支える家族としての感情に気づくのも大事ですから、そこはちゃんと声に出す機会を自分たちで作るか、医療者が手伝う形で作ったほうがいいですね。日々思うのは、対話が足りないということですね。

中山それは大事な治療方針を決定するシーンでのことですか?

西それもそうですし、やはり死に向かっていくという中で、お父さんは本当はどう過ごしたかったのだろうか、ということもあるでしょう。

中山家族だけで話し合うのと、医療者が加わって話し合うのは、どちらがいいと思われますか。ケースバイケースですか。

西家族だけでできるのなら、それでいいと思います。けれど、家族だけではできないというパターンもかなり多い気がしています。

中山僕もそんな気がしています。

西家族同士でなくても、医者ではなくても、看護師さんなどが調整して家族会議的なものをすすめるというのはどうでしょう。とにかくお父さんと娘だけで話し合うことになると、「おまえは何もわかってない!」と子どもの言うことはまったく聞かない、という人もいます。

中山ご家族に気を遣う患者さんもいますよね?