各社が勝負をかける
車両の「顔」の形状

 この延長線上にあるのが、今年2月23日から営業運転を開始した、東京メトロ丸ノ内線の真っ赤なボディの新型車両「2000系」だ。2012年から導入が始まった銀座線「1000系」のレトロ調デザインが好評だったことから、東海道新幹線「300系」「700系」「N700系」を担当したインダストリアルデザイナーの福田哲夫氏・福田一郎氏の監修の下、往年の丸ノ内線の赤い電車「300形」をイメージさせるフルラッピング車体と、先頭部や車端部の客室窓、インテリアに「丸」のモチーフを取り入れて、特徴ある車両に仕立て上げた。

 ただ、ここまで大胆なチャレンジは、今のところ少数事例だ。近年は車両標準規格の策定により、メーカーごとに仕様の共通化が進んでおり、デザイン上の制約も大きくなっている。となると、「顔」で差別化を図るしかないため、これまでの四角い電車と一線を画する、立体的で曲線を多用して「表情」を表現する形状が流行している。

 2017年から本格導入が始まった山手線の「E235系」車両は、前述の奥山清行氏によるもので、スマホやタブレットなど情報端末を意識した前面の大きな窓と表示装置で「人と人、人と社会をつなぐ情報の窓」を表現した。

 西武鉄道が2008年から導入している通勤車両「30000系」は、スマイルトレインの愛称が示すように、やさしく、やわらかなふくらみで笑顔を表現。東急電鉄が2018年から田園都市線に投入している「2020系」も、丸みのある先頭形状を採用し、やわらかな顔をイメージした。都営地下鉄浅草線の新型車両「5500形」は、浅草線沿線にゆかりのある歌舞伎の隈取りをイメージした、キリっとした表情が特徴だ。各社とも車両の「顔」を通じて利用者とのコミュニケーションを図っている。。

 昨年引退した東京メトロ千代田線「6000系」は、1968年に「21世紀の電車」をコンセプトに斬新な非対称のデザインで登場した。利用者の地下鉄のイメージと以降の車両デザインに大きな影響を与えつつ、それ自体が60年代レトロフューチャーとしての時代性を持ちながら、21世紀まで個性を保ち続けて引退した。

 近年の車両デザインが一時のブームで終わるのか、利用者とのブランドコミュニケーションの成功事例となるのか、その答えが出るのは20年以上先の未来である。

(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)