>>(上)より続く

「一応どこ行くかの目的は設定しておきたいけど、ドライブはハンドルを握っている時間が心地いい。色々なことをゆっくり考えることができて、『そう言えば、最近こんなにゆっくり過ごしたことはなかったな』と気づいたり」

 睡眠不足を強いられる夜泣き対応の中で、「最近はこんなにゆっくりしたことなかった」と感じるのも皮肉な話だが、Aさんにとってはこのドライブが大いにリフレッシュとなったようであった。

「ドライブ中、職場のことを考えていて、『自分がもっと余裕を持てば周りも変わるのではないか』と気づき、そのアプローチを何通りか考えて実践してみた。すると、職場の人間関係が確実にいい方向に変わった」

 そんなうまくいくものだろうかという気もするが、本人の観測可能な範囲でそう感じたのであるから話半分で聞いたとしても若干以上の成果は上がったのであろう。Aさんのドライブ中の考え事はこちらの想像以上に深い思索の旅であったのかもしれず、彼を少なくともポジティブな方向に向かわせたのであった。

工夫次第で有意義な苦行に
それぞれの前向きな時間

 いわゆるメタボが原因で、健康診断で黄信号を受け続けていたBさん(35歳男性)は、「とはいえ自分はまだ若いし平気だろう」と自分に言い訳して乗り切っていた。妻からは肥満体を意味するカタカナ2文字の蔑称をしばしば投げつけられるようになり、Bさんがそれにも慣れて何とも思わなくなった頃、子どもの夜泣きが始まった。

 Bさん夫妻の夜泣き対応は交代制であり、夜泣きは毎晩勃発したので、Bさんの当番は一日おきにやってくる。集合住宅の一室にあるBさん宅は上下左右の世帯に気を遣う必要があり、寝室でギャンギャン泣く息子の声はBさんの胃をキリキリ痛ませた。いっそ外に連れ出してほとぼりが冷めるまで散歩をしようと考え、Bさんの深夜徘徊が始まった。息子は外に連れ出すとなぜか泣きやんだので、深夜徘徊の必然性は強まった。