原則論はその通りだが、現実には取引先金融機関に配慮してあれもこれもと運用商品の数を増やした結果、加入者が選べないという状況になっているのだ。ここは行政が介入してでも、本当に加入者のためになるような制度にすべきだと筆者は考えていた。

 結果としては上限が35本という数字になり、ほとんどの企業ではその本数以下なので、あまり代わり映えしない結果とはなったのだが、一部の企業では60本以上もの商品がラインナップされていることに鑑みると、一定の抑止効果にはなるだろう。さらに、今年に入って新しい動きが出てきている。

運用商品を半減させた日立製作所

 2019年の1月29日、日立製作所はそれまで採用していた商品数18本を半分の9本に削減すると発表した。これまでの商品数18本でも平均に比べてそれほど多いわけでもないし、上限本数35本よりもはるかに少ないのだが、それでも一挙に半減したということの意味は大きい。

 日立製作所が確定拠出年金を導入したのは2001年だから、最も早い時期に導入した大企業の1つだ。その会社が20年近くにわたって制度を運営してきた結果、加入者の選択しやすさを考慮して商品数を半減させた意味は重く、他の企業にも影響を与える可能性は高い。

 人間は、物を選ぶということにある種のストレスを感じる心理を持っている。その結果「分からない投資信託より知っている定期預金を」ということになりがちなのだ。通常は情報負荷による思考停止が起きた場合、「どれが一番おススメですか?」と人に聞いてしまう傾向になりがちだが、確定拠出年金では特定の運用商品を推奨することは禁じられているため、通常の株式セミナーなどと違って講師に聞いても教えてくれることはない。結果として、無難な定期預金になってしまうということだ。

 別に、定期預金にするのが悪いということではないが、年金のように長期にわたって運用を続ける場合は、国内外の株式や債券といった複数の異なるアセットクラスに分散して資産配分するのが基本だろうし、結果として短期的にはともかく長期的には安定した成果が出やすいと考える。

 法律の上限にこだわらず、真に加入者のために、加入者が選びやすくするために良質でシンプルな商品ラインナップとなる企業が今後も増えていくことを期待したい。

(経済コラムニスト 大江英樹)