手塚治虫、石ノ森章太郎、赤塚不二夫…
トキワ荘に集う登場人物は超豪華

 草創期なので、漫画家と編集者が高揚している様子も面白い。本作の登場人物で、A氏とF氏は「満賀道雄」と「才野茂」という仮名だが、ほかの人物の大半は実名である。しかし、ときどき仮名の編集者と雑誌も出てくる。

 トキワ荘に多くの若い漫画家が集まり、ともに生活しながら競争し、ときには協力していたことはよく知られている。東京都の豊島区がトキワ荘を原寸で復元した博物館の建設を進めており、2020年3月の開館を予定しているそうだから、おそらく海外からも集客することだろう。

 本作に登場するトキワ荘をめぐる登場人物のうち、最初に住み着いたのは手塚治虫、その後、1年以上住んでいたのは寺田ヒロオ、そしてA氏とF氏、石ノ森章太郎、赤塚不二夫である。

 A氏以外の5人は他界してしまった。手塚は60歳、寺田61歳、F氏62歳、石ノ森60歳と、若くして没している。85歳で健筆をふるうA氏は本当に貴重な存在だ。少年時代に「まんが道」という目標を目指して歩いてきた漫画家人生の面白さを、今後も伝えてもらいたいものだ。

 青春時代の人生行路を描いた文芸作品は数多いが、私が書架に残している作品は、五木寛之の『青春の門筑豊篇』『同自立篇』(講談社)、そしてこの『まんが道』の2作である。おそらく、どちらも高校生のころから長期間にわたって読んでいたからだろう。両作ともに初出は1970年前後だった。

 A氏とF氏が分離して合作者から単独の作家になったのは1987年だから、この自伝のはるか後のことである。ちなみに、F氏の代表作はなんといっても『ドラえもん』だ。A氏の代表作は『忍者ハットリくん』『怪物くん』といったところだが、いずれも連載開始から50年を超え、現在でもアニメや実写の動画作品が製作されているのである。

(ダイヤモンド社論説委員 坪井賢一)