EU離脱は、長期的にみれば
英国に不利益とはいえない

 この連載では、英国のEU離脱は、長期的にみれば英国に不利益とはいえないと主張してきた(本連載第149回)。もちろん、「合意なき離脱」は短期的に英国経済に大きな悪影響があることに異論があるわけではない。単一市場から離脱する英国に、欧州の拠点を置くことは、金融業や製造業にとって明らかに不利益であり、今日の利益を考えるならば、EUに拠点を移すのが合理的だ。

 ただし、中長期的には、たとえ「合意なき離脱」であっても、英国は経済力・政治力を保つことができるのではないかと考えてきた。英連邦には、「資源大国(南アフリカ、ナイジェリア、カナダ、オーストラリアなど)」「高度人材大国(インド)」「高度経済成長している新興国(東南アジア)」などが含まれる。英連邦を再構築しつつ、離脱後の最初の5年間を乗り切れば、その後は「巨大な生存権」を築ける可能性がある(第134回)。

 一方、英国がEUに残留した場合、短期的には混乱を避けられるが、中長期的に英国に利益があるかはわからない。この連載では、EUを「泥船」と表現してきた(第149回)。EUの内情は、ドイツだけが好調で、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、イタリアなど経済的に困難な国々を域内に抱えている。

 しかも、EUは緊縮財政を強制し、これらの国はますます困窮し、失業に追い込まれた若い労働者がドイツに移動している。要は、ドイツ「独り勝ち」状態にEUの多くの地域で不平・不満が広がっている。また、経済は好調なドイツでさえ、「政治的」にはナショナリズムの広がりに悩まされている。

 英国がEUに残留した場合、英国は経済的に困窮する加盟国の面倒をみることになるかもしれない。ドイツは歴史的に、南欧を「怠け者」と蔑んできた。財政赤字は怠惰のせいだとして、それらの国々に対する財政支援に消極的だ。援助を受ける前に、まず真面目に働けということだ。

 そうなると、より寛容な英国が頼りにされることになるだろう。英国は財政赤字と失業に苦しむ加盟国に、巨額の財政支援を行い、大量の移民を無制限に受け入れることを強いられるかもしれない。

 この連載では、「英国がEUを合意なき離脱となった場合、日本が主導して『TPP11』に英国とEUを同時加盟させればいい。そうすれば、英国とEUはTPPという枠組のなかで自動的に自由貿易圏となる」という提案をしたことがある(第192回)。