「5G」特需が見込まれるも
存在感が薄い日本の通信機器
2020年からいよいよ日本でも携帯電話の第5世代、いわゆる5Gのサービスが開始されます。5Gへの切り替えとなると、携帯電話会社1社で2兆円規模の投資が必要になります。単純計算すると、携帯4社(ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天)合計で8兆円ですから、日本経済全体の景気を左右するくらいの特需が起きることになります。
しかし一方で、この5G通信網の調達先として、NECや富士通のような日本の通信機器メーカーの存在感が低いことが指摘されています。世界シェアで見ると、エリクソン、ノキアの北欧勢とファーウェイ、ZTEの中国勢の4社で占有率は9割を超えます。世界市場は完全に4社寡占になっているわけです。
ここから日本勢が盛り返すのは、不可能に近い情勢だと思います。しかし、わずか20年前には、こんな状況になることは逆に考えにくい時代がありました。そこからなぜ日本メーカーは凋落してしまったのか。時代の流れを遡って、振り返ってみたいと思います。
今から20年ほど前、20世紀終盤の通信網設備の世界シェアには、ある特徴がありました。簡単にその当時の様子を説明すると、アメリカ大陸の通信網の市場はアメリカの通信機器メーカーであるルーセントがほぼ独占していました。ヨーロッパ大陸はフランスのアルカテル、ドイツのジーメンス、そしてスウェーデンのエリクソンが寡占していました。そしてアジア市場は、NEC、富士通など日本企業が強いという形で、世界市場が棲み分けられていました。
この状況をスタート地点として眺めると、凋落したのは日本メーカーだけではないことがわかります。アメリカのルーセント、フランスのアルカテルは、現在はフィンランドのノキアの傘下に入っています。ドイツのジーメンスもノキアとの通信合弁会社をノキアに譲渡しています。日本勢だけでなくアメリカとヨーロッパの大手通信メーカーも、業界再編の波に飲み込まれてしまったわけです。
かつての大手メーカーが、わずか20年で業界競争から取り残されてしまった理由ですが、私は2つの歴史的な問題がその背景にあると考えています。
1つ目の問題は、世界的に通信網の研究開発は、もともとメーカーではなく政府が行うものだったこと。通信網というものは、公共のインフラであると同時に、敵国に情報を奪われないという国益のための意味合いが強いネットワークでした。