そこで、国が所有する通信キャリアが通信網の根本的な研究開発を担うことが、先進国では歴史的に当たり前のように行われてきました。アメリカで言えば、AT&Tのベル研究所がそれを担い、日本の場合は電電公社の電気通信研究所(通称・通研)がその役割を果たして来ました。

 私が学生だった当時、通研と言えば東大工学部でも一番優秀なレベルの学生しか行くことができない、日本の技術者にとって最高峰の研究所でした。基本的に、日本やアジアの通信ネットワークは、この通研が開発したインフラをNECや富士通といった電電ファミリーの企業群が製品化したものを、採用していたのです。

旧電電ファミリーのシェアが
「5G時代」に崩れそうな背景

 この体制が崩れるのは、通信会社の分割民営化からです。しかもきっかけは日本のNTTではなく、アメリカのAT&Tから始まります。

 当時アメリカでは、規制緩和による新規参入によって産業を活性化させようと、航空、金融など様々な分野で規制撤廃の動きが広まっていました。その中でAT&Tという巨大独占企業の存在が問題視され、AT&Tは長距離会社、8つの地域会社、そしてベル研究所などの研究所会社に分割され、この研究所会社が最終的にルーセントになります。

 この時期、規制緩和で市場参入したMCIやスプリントといった新興の通信会社が、競争上不利になってはいけないということで、機器の調達先としてのルーセントは、当然のようにAT&Tから離れていくことになります。通信の研究開発のコア部分が、政府の手を離れ純粋な民営会社へと委ねられていったのです。

 規制緩和は、調達先のグローバル化にもつながりました。たとえば、ソニーが中心となって始まった旧DDIでは、ソニーとエリクソンやサムスンとの距離が近かったこともあり、現在のKDDIの基地局網ではこの2社の通信設備が主に使われています。同様にソフトバンクは、孫正義社長の人脈がアジア方面に強いこともあり、ファーウェイが大きなシェアを持っています。

 一方で、ドコモの従来の通信ネットワークでは、旧電電ファミリーの結束は強く、NECと富士通で8割弱のシェアを持っています。しかし、5Gでその状況も崩れそうになってきました。エリクソンやノキアに調達が切り替わりそうだと言われています。なぜ、そんな事態に陥ったのでしょう。