全体を知ることでデザインが浮かび上がってくる

佐渡島庸平(さどしま・ようへい)株式会社コルク 代表取締役会長佐渡島庸平(さどしま・ようへい) 株式会社コルク 代表取締役会長
2002年講談社入社。週刊モーニング編集部にて、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集を担当する。2012年講談社退社後、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。従来の出版流通の形の先にあるインターネット時代のエンターテイメントのモデル構築を目指している。
著書に『ぼくらの仮説が世界をつくる』(ダイヤモンド社)『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE.』(幻冬舎)などがある。

水野 それね、すごく面白い話なんですけど、ぼくの仕事の仕方はまさにそれです。
たとえば今、福井県の鯖江市にある、漆淋堂さんという漆の会社とお仕事をしています。みなさん「漆」というと輪島塗じゃないですか。その輪島塗を作っているのは、ほとんどが鯖江の人たちなんですよ。

佐渡島 輪島の人たちじゃないんだ(笑)。

水野 輪島の人たちじゃなくて、鯖江の人たちがかなり作ってるんです。

佐渡島 眼鏡だけじゃないんですね、鯖江は。

水野 鯖江は眼鏡だけじゃないんですよ。鯖江は伝統工芸がめちゃくちゃ集まっていた地域だから眼鏡もあるんです。そして、漆がものすごく盛んで。「越前漆器」というんですけど、漆の器で産地の歴史としては日本最古参なんです。
 これ、証拠がないから言えないだけですけど、おそらくいちばん古いんですよ。何年前からあるかというと、1500年前からあるんです。だからもう日本史はだいたい593年ぐらいから始まるじゃないですか。あのぐらいからもうあるんですよ。

佐渡島 大宝律令の頃にはもうあったんですね。

水野 聖徳太子が摂政になるやつですよね。だから「そのぐらいからある」と、まずそこから調べちゃうんですよ。「なんでそんな資料残ってるの」「ここにこういうふうに書かれてるんですよ」といった具合で。
そして、ずっと調べていくと「あ、じゃあ、デザインはこうだね」と、やっぱり必然的に決まっていくんですよ。

佐渡島 そうですね。そういう意味でいうと、東大の数学も結局はそういうふうに考えられている。
というか、数学ってものごとをすごく「シンプル化」しているものじゃないですか。例えば、ある状態を「n」とすると、次の状態が「n+1」ですよね。

水野 うん、まあ、そうですね。

佐渡島 「n+2」があって、で、「n」と「n+1」と「n+2」の関係値を調べると、例えば「n+10」とかが自然と想像できるじゃないですか。

水野 う、うん。

会場 (やや不安を覚えつつも)(笑)。

佐渡島 これを「漸化式(ぜんかしき)」というんですけど、この漸化式を理解すると「予測力」がつくんですよ。
東大の問題って、基本的に漸化式を学ばせるんです。
ものごとの変化を理解するためには、たとえば地図の場合も、絶対に1点だけでは場所がわからなくて、まずは2点必要だし、3点あるとより正確にわかるじゃないですか。

水野 おお~。

佐渡島 というのと、数学も同じようになってるんですよ。

水野 それもぼく、仕事でやってますよ。ヒントがいっぱいあればあるだけいいんですよね。

佐渡島 そう、そう。そのピン打ちできるヒントがあれば。

水野 そう。デザインって、「デザインされる部分」を作ってると思いがちなんだけど、そうじゃなくて、「まわり」を作ってるんですよ。
まわりをぜ~んぶ作っていくと型と一緒で「中」ができるじゃないですか。大仏みたいにまわりを作っていって、中に流し込んでパカッて開くとできている、ということなんです。

※対談の続きは4/17公開予定です。