人影のない売店売店にも人影はない Photo by K.H.

 確かにこのタクシー運転手の言う通りだった。「蓮池潭」といえば、高雄が誇る唯一の有名観光地だが、その周辺には観光バスを仕立てて来る観光客の姿はなく、売店にも人の気配はなかった。

 この運転手は「大陸から観光客が来なければ経済が落ち込み、経済が落ち込めば台湾は世界から見放されてしまう」と悲観し、「だから今の高雄市長に期待している」と続けた。先の統一地方選で高雄市長になった韓国瑜氏は、高雄を豊かにするために大陸の観光客は欠かせないと訴えてきた。

 ところが、復路で乗ったタクシーの運転手の考えは、これとはまるで反対だった。

「大陸からの観光客を相手にしても、彼らは儲けさせてくれない。一番いいお客は日本人、親しくなればあちこちの見物でチャーターしてくれるからね。そもそも、大陸のお客は多くが団体で来るから、タクシーなんて使わないんだよ」

 儲かる儲からない以上に、このタクシー運転手が嫌ったのはマナー問題だった。「物を買ってくれるのは有難いけど、彼らは所構わずゴミを捨てるから街が汚れるのだ」、「それがなくなっただけでもホッとする」と言った。

地元は潤ったといえるのか

 台湾が大陸からの観光客で賑わっていた当時、台湾の観光産業はあたかも潤っているかのように見えた。その恩恵を受けたのは、宿泊施設、観光バス、飲食、免税店、土産物店とそのメーカーなどで、大陸の観光客の増加とともに事業者は雨後の筍のごとく数を増やした。だが、“特需”も長くは続かなかった。しばらくすると、ホテルや土産物メーカー、バス会社などの観光関連産業は、次々と中国資本に買収された。

 また、台湾行きの団体ツアーの価格は激しい競争にさらされ、年々利幅を薄くした。それに伴い、ツアーに組み込まれる宿泊費、食費も削られ、ツアーの質の低化が始まった。ツアー商品の販売では利益が出せないため、ガイドは実入り確保のために観光客を免税店に連れて行き、買い物を促してリベートを取るようになる。

 台湾観光とはいえ、しょせんは中国資本に押さえられたルートを回遊するのが実態であり、台湾の事業者が大陸客にアクセスすることは、よほどの人脈がない限り難しいとも言われるようになった。