ひと口に脊髄損傷といっても、患者の年齢、急性期なのか慢性期なのか(損傷からどのくらい経過しているか)、完全麻痺なのか不全麻痺(部分的な麻痺)なのか等、患者の状況によって、再生医療の効果は異なる。

 中村先生のゴールはあくまでも、慢性期の脊髄損傷患者の治療実現だ。困難ではあるが、チームは損傷から時間がたったマウスでも、運動機能の回復に成功しており、可能性は大いにある。

 この夏から行われる臨床研究の対象は、脊髄損傷から2~4週間が経過した患者で、運動などの感覚が完全に麻痺した18歳以上の4人。京都大学iPS細胞研究所が備蓄する他人のiPS細胞から神経のもとになる細胞を作り、患者1人あたり200万個を損傷部に注射で移植する。

 移植から1年かけて安全性や効果を確かめるほか、移植と並行してリハビリも行い、手足などの運動機能の改善を目指す。他人の細胞を移植するので、拒絶反応を抑えるための免疫抑制剤を使用する計画だ。

 安全性などが確認できれば、効果をより詳細に調べるための臨床試験(治験)の実施など実用化に向けた次の段階に進み、一般的な治療としての普及を目指す。

「たとえ一歩一歩の歩みは小さくても、確実に前進していきたい。患者さんたちの期待を裏切らないためにも、研究のための研究ではなく、“From bench to bed side”(研究室から臨床へ、の意)を合い言葉に、今後も研究を進めていきます」

◎中村雅也(なかむら・まさや)
慶應義塾大学病院 整形外科学教室教授。1987年慶應義塾大学医学部卒業。1998年〜2000年ジョージタウン大学(アメリカ)留学。慶應義塾大学専任講師(医学部整形外科学)、京都大学再生医科学研究所非常勤講師、慶應義塾大学准教授を経て2015年2月より現職。医師として、常に患者一人ひとりの顔を思い浮かべ、「自分のところへ訪ねてきた、この人を治したい」という想いで研究と治療に取り組んでいると語る。