今後は、中長期的に見て、こうした動きが活発化していくと思われる。場合によっては、「貿易収支の赤字を投資収益収支が補うが、前者は円安要因なのに後者はそうではないので、中長期的に円安が進む」という姿が定着していく可能性がある。

 もっとも、円安は節度のあるものにとどまるだろう。ある程度円安が進めば、「日本で作って輸出すれば大きな利益が得られるなら、高い給料で労働者を雇おう」という輸出企業が増えるからである。

 余談であるが、そうなると内需型産業との労働力獲得競争が起きるとも考えられる。輸出減ではなく輸出増が迷惑だといわれるとすれば、日本経済を長年観察してきた筆者にとっては感慨深いことである。

「正しい為替レート」の議論は危険かも

 さて、今の為替レートは「正しいレート」より円安なので、長期的には正しいレートに戻る力が働くはずだ、という論者は少なくない。

 正しいレートとは、「実質実効為替レート」や「購買力平価」などとも呼ばれるもので、要するに、貿易収支を均衡させるレートという意味である。

 求め方は2つある。1つは日米の物価が等しくなるレートを計算する方法だ。米国の方が物価が高ければ、日本の輸出が増えるはずだからである。国際機関等の計算によれば、今のレートは円安すぎるようだ。

 もう1つは、日米の物価上昇率格差分だけ円安になるはずだ、という前提から計算する方法である。これによれば、過去20年以上もの間、米国がインフレで日本がデフレであったにもかかわらず、為替レートが方向感を持たずに上下を繰り返していたのだから、今のレートはやはり円安すぎることになる。

 しかし、この正しいレートに関する議論は危険もはらんでいる。「為替レートが円安すぎるならば、貿易収支黒字が膨らみ、それがドル売り圧力となって円高をもたらす」というこれまでの理屈自体が、貿易収支の黒字が膨らんでいない事実によって否定されかねないからである。