――何も変わらないことこそが価値だと。

豊原 そうです。たとえば、和歌山には100年以上も続いている老舗の鰹節屋さんがありますが、本当に鰹節しか売ってないんです。それが100年も続いてきたことのすごさに、日本が不況に包まれたとき、改めて衝撃を覚えて。それまで「発展しない」ということをネガティブにしか捉えていませんでしたが、「長く変わらない」=「長く続く」と捉えれば、ものすごくプラスの価値がある。ずっと発展しないように見えているけれど、災害が起きても大恐慌が起きても生き残る何らかの強さがあるんじゃないかと、思うようになったんです。

貴水苑
貴志川沿いに建つ元料亭の貴水苑

――ゲストハウスに使われている古民家も築100年以上ですね。

豊原 100年以上も前に建てられた家がたくさん残っているということは、100年以上も平和で安全な状態が続いた証です。考えてみれば、それってすごい価値です。安全、自然、健康、長寿……。今の社会で求められているものが、すべてあると言ってもいいと思いませんか。

貴水苑の室内
室内からは四季折々の風景が楽しめる

地方にはグローバルな価値があり
「何もないこと」が魅力になる

――海外生活、貿易会社勤務を経て起業し、経営し……。経歴を拝見すると、バリバリのキャリアウーマンですが、豊原さん自身はとても自然体で自由に見えますね。

豊原 確かに、以前はバリバリやっていましたが、実は当時から売り上げアップや事業拡大にはあまり興味がありませんでした。ひたすらリスクを回避する行動をとり続けたら、今の場所に辿り着いたという感じです。

 起業したのも、その前に勤めていた貿易会社の仕事がハードワーク過ぎたからです。当時は子どもたちがまだ小さかったのに、残業が多すぎて、子どもたちと触れ合う余裕がまったくない。もっと子育てに向き合いたいし、納得いくまで仕事もしたい。それなら、子育て中でも働きやすい会社を自分でつくっちゃおうと。業務内容も、商品を「売る」ことがメインの貿易業から、商品を「運ぶ」ことをメインにする貿易代行業にシフトしました。その方が、自分に何かあっても仕事がスムーズに回る仕組みがつくりやすかったからです。