聞き手の感情に寄り添うプレゼン資料を
では、前田さんは、同社の実際のプレゼン資料をどのように改善したのだろうか? ここでは、寺子屋事務局が作成した、「寺子屋」への参画を社員に呼びかけるプレゼン資料のブラッシュアップ・ポイントを具体的に紹介しよう。
寺子屋事務局が作成したプレゼン資料の冒頭部分は、次のとおり。
ご覧の通り、「商談の際、財務諸表が読めなくて困った…」「今後のキャリアについて悩んでいる」などのリアルな悩みを提示しながら、「寺子屋」に参加すれば、それらの悩みを解消できることを伝える内容になっている。
前田さんは、「コンセプトがしっかりした資料なので、『より伝わりやすくする』ことを主眼にブラッシュアップしました」とコメント。まず、1枚目(表紙)を次のように変更した。
【ポイント】画像を全画面で使用することで、インパクトが劇的に向上。
そして、以下のスライドを次のようにアレンジした。
【ポイント】
・プレゼンを「質問」から始めるのは、「自分ごと」として捉えてもらいやすくなるので、そのまま踏襲。
・ただし、ビジネスプレゼンでは、イラストよりも写真のほうがリアリティがあり、説得力が増すので、写真に変更。
・また、1枚のスライドに3つの要素を入れると、情報過多でインパクトが弱くなる。そこで、1枚のスライドに分割して、1枚に1つの要素に絞る。
改訂のポイントについて、前田さんは次のように話す。
「『寺子屋』は新規事業のようなもの。社員さんにすれば、正直なところ興味がないものですから、そこに巻き込んでいくには感情に訴えかける必要があります。そのためには、質問からプレゼンを始めるのは非常に効果的です。相手に考えてもらうことで、『自分ごと』にしてもらいやすくなるからです。
ただし、聞き手が一枚のスライドに注意を向けられるのは20秒が限界。それ以上だと、集中力が続かず、他のことを考え出してしまいます。それでは、記憶にも残してもらえません。だから、1枚のスライドに入れる情報量はできるだけ少なくする必要があるんです」
この指摘を受け、スライドを作成した長谷川さんはこう話す。
「前田さんのおっしゃるように、私たちが作ったスライドは、どこか“外”から離れて見ているような印象があって、聞き手に“自分ごと”と思ってもらいづらい雰囲気になっていたと気づきました。聞き手の感情、感覚に寄り添いながら、プレゼン資料をつくる必要があると思います」
今後も、同社では、「寺子屋」を通して社員が自律的に学ぶ風土を醸成していきたいと考えており、前田さんのプレゼン研修についても続編を検討中とのことである。「プレゼン力を高めたい」と願う社員たちが自発的に学ぶことで、サントリー社員の「プレゼン力」は格段に磨かれていくに違いない。