近年、多くの企業が「プレゼン研修」の導入を進めている。実はプレゼンを学ぶことは、ただ単に社員のプレゼン能力を向上させるだけではなく、思考やビジネスに対する意識をも変え、ひいては会社全体の生産性アップにもつながるからだ。『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』などの著者として知られる前田鎌利氏が「プレゼン研修」を担当している株式会社ベネッセコーポレーションもそのひとつ。社員のプレゼン研修の様子と具体的なスライドのブラッシュアップをリポートする。(ライター:小嶋優子)

ベネッセの学校担当者向けにプレゼン研修を行う前田鎌利さん。

 教育事業の「雄」・ベネッセコーポレーション。
 同社では、全国の学校を訪問する学校担当者(同社では営業担当者を学校担当者と呼ぶ)向けに体系的な研修の再構築を進めている。4月15日に都内で行われたのは、東日本教育推進部の学校担当者を対象としたプレゼン研修だった。

 研修講師を務めたのは、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』の著者・前田鎌利さん。研修の再構築を進める理由について、ベネッセ学校カンパニー次世代教育支援グループリーダーの石坂奈都季さんはこう語る。

ベネッセ学校カンパニー次世代教育支援グループリーダーの石坂奈都季さん

「私たちは全国の9割以上の高校とお取り引きがあります。歴代の先輩からは『私たちは営業をすることが仕事ではない。多くの学校に関わる責任を持ち、その学校・地域の発展に貢献することが仕事である』と仕事への心構えを受け継いできました。現在は教育・入試改革の真っただ中、混乱している学校も多くあります。自分たちに何ができるかを考えたとき、学校コンサルタントと名乗れるぐらい、学校に寄り添い、先生とともに課題を解決することである、という結論に行きつきました。
 そのためにまず必要なのは、先生方にメッセージを正しくお伝えするためのプレゼン研修だと考えたのです。前田さんのプレゼン研修は、プレゼンそのものだけではなく、お客様の想いに寄り添うことの重要性もお話いただけると聞いて、前田さんに研修をお願いすることになりました」

 研修では、相手の想いに寄り添い、行動を促すプレゼン資料の作り方が体系的にレクチャーされたのち、同社の学校担当者が実際に使っている「スタディーサポート」の説明資料を前田さんが添削した。
 
「スタディーサポート」は、生徒一人一人の学力の状態や学習習慣を把握するためのテストと、そのデータ分析を通して課題を把握し、学びをサポートしていく総合的なシステム。全国57万人の高校1年生が受検しているため、5月以降多くの学校でデータを使用した入学生の実態について報告をするが、データやグラフを駆使する必要があり、プレゼン資料が複雑になりがちだ。

 研修当日、添削用に提示されたのは、このスライド。「スタディサポート」で提供するサービスを、3つのステップに沿って説明するものである。

主体的な学びに向けてスタディーサポートでご支援できること

 前田さんが、このスライドに対して指摘したポイントは次の3つ。

1 すべてを1枚で説明しているために、ビジーなスライド(情報量が多いスライド)になっている
2 キーメッセージが長く、瞬時に理解しにくい
3 フローチャートが「上→下」に流れているために、把握しにくい

 そして、次のように、スライドを4枚に分割するブラッシュアップ例を提示した。

スタディーサポートが支援できること1

 前田さん「まず、1枚のスライドで3つのステップだけを示して、相手に大きな流れを把握してもらうといいでしょう。ポイントは、フローチャートを左から右に流すことです。これが、最も時系列を把握しやすい形なのです」

スタディーサポートが支援できること2

 前田さん「1枚目で全体像を示したうえで、このスライドでは『測定』と『把握』のステップのポイントを示します。ポイントは、できるだけ文字量を減らすことです。文字量が多ければ多いほど、理解するのに時間がかかるからです」

スタディーサポートが支援できること3

 前田さん「前のスライドに続いて、このスライドでは『活用』のステップの概要を示します。このスライドのように、『個人オンデマンド帳票』『スタサポ活用BOOK』など覚えてほしいワードをカラー文字で大きく表示すると効果的です」

スタディーサポートが支援できること4

 前田さん「最後に、これまでの3枚のスライドをまとめたスライドを提示すれば、相手は頭を整理しやすいでしょう」

 このように4枚のブラッシュアップ・スライドを示したうえで、前田さんは、次のように強調した。

「全国の先生方にお伝えすべき情報は多岐にわたることと思います。しかし、だからといって、1枚のスライドに多くの情報を詰め込みすぎると、相手は内容を把握することができません。その結果、いろいろ伝えられたけれど、何も頭に残っていないという状況になりやすいのです。
 ですから、先生に伝えるべき情報を厳選することが重要です。そのうえで、『1スライド1メッセージ』を意識して、できるだけシンプルでわかりやすいスライドをつくるようにしてください」

前田鎌利さん

 研修終了後、「今まさに先生方へスタディーサポートの報告の際に使っている資料なので、みな自分ごととしてとらえてくれたと思います」と石坂さんが話すように、受講生はみな食い入るようにスライドに見入っていた。

 前田さんのプレゼン研修は6月にも開催され、次回は、一人ひとりの社員が自らの資料をブラッシュアップする予定だ。

 さらに、前田さんは、「Udemy(ユーデミー)」というオンライン学習プラットフォームで「社内プレゼン」「社外プレゼン」の動画講座も提供しており、研修で学んだことを振り返り、さまざまなケーススタディで自主練できる体制も整えている。これは、地方でなかなか学習する機会がない社員にとっても有効だ。

 そのような恵まれた環境のなかで、日々、先生方と向き合うことで、学校担当者は間違いなく「プレゼン力」を高めていくことだろう。そのとき、彼らが目指す「学校コンサルタント」としての存在感は、さらに強くなっているはずだ。