他方、「石の上にも三年」というコツコツと努力を積み重ねる姿勢を過去のものと喝破するのが、ホリエモンこと堀江貴文だ。ベストセラーになった『多動力』(幻冬舎文庫)では、1つのことに集中して邁進していては負け組になると説いている。なぜなら、インターネットによってすべての産業が「水平分業型モデル」となり、“縦の壁”は崩壊しつつあるからだ。
たとえば、テレビがアプリとしてスマホに組み込まれるようになったことや、自動車がIoTによって自動で動く椅子に変わる可能性が生まれていることにも、そうした流れは顕著であるというのが著者の弁。
「寿司屋の修行なんて意味がない」、「手作り弁当より冷凍食品のほうがうまい」などと、物議を醸しそうな物言いが目立つあたりは著者らしさの表れだが、時短によって得られたゆとりを活用し、複数の肩書を持つようになれば、人材としての価値が上がるという指摘は的を射ている。
個人を生かすことがイノベーションに繋がる
こうなると、不平不満を抱えながらも現職で頑張ろうとしている人は、最終的に損をするのかという疑問も湧くだろう。一刻も早く自身の武器を伸ばすことのできる次のステージへ向かったほうが、機能的な人材でいられるのではないか、と。
しかし、迷う必要はない。幻冬舎代表・見城徹とサイバーエージェント代表・藤田晋の共著『憂鬱でなければ、仕事じゃない』(講談社プラスアルファ文庫)は、タイトルがそのまま1つの解になりそうだが、両著者による歯切れのいい“金言”の数々が心地よく胸に迫る。
「スムーズに進んだ仕事は疑え」、「苦境こそ覚悟を決める一番のチャンス」、「顰蹙は金を出してでも買え」などなど、見出しを追うだけでもキャッチーな教えが目につくが、本書が秀逸なのは、すべてのフレーズに見城・藤田両氏の実体験的裏付けが添えられている点だ。
たとえば「パーティには出るな」の項では、人脈とも呼べない小手先の知人ばかりが増える弊害を見城氏が痛烈に語り、先輩からパーティと名のつくものにはできる限り出席するようにと教わってきた藤田氏が、それで得られるものなど「ほとんどない」と実感を込めて語っている。世代と立場の異なる両氏が、いずれの項でも同じ結論に到達しているのは興味深い。
今与えられている環境での最善の一手を考える上で、貴重なヒントが得られるだろう。
自分磨きに励むプロセスでは、誰もがさまざまな悩みに直面するに違いない。まして、組織に属し、人間関係の中に身を置いていれば、軋轢は付き物。昭和の思考を持つ世代が実験を握る現在は、若手にとって根本的な価値観の違いがストレスになりやすいともいえる。
著:北野唯我 本体:1500円+税
そこで、先にも触れた北野唯我が、『転職の思考法』に続いて物語形式で綴った『天才を殺す凡人――職場の人間関係に悩む、すべての人へ』(日本経済新聞出版社)では、資質を十分に生かしきれない組織内のストレスをひもとき、才能を有効活用するための方法を論じている。
本書では人材を「天才」「秀才」「凡人」に分類。この三者の相関関係を分析し、必然的に起こるコミュニケーションの断絶が、イノベーションを阻害するメカニズムを解説している。
天才は本来、イノベーションを実現するために凡人の力を欲しているが、凡人は天才を理解できず、敬遠しがち。その一方で、天才を妬む秀才が台頭し、結果的に天才は殺されてしまうというのがそのロジックだ。
職場の人間関係にストレスを感じることがあれば、まず今の環境を分析し、資質の生かし方を考えるべき。きっと、現状打破に必要な気づきが得られるはずだ。
色とりどりの5冊を取り上げてきたが、現在の環境に疑問や違和感を覚えた時、こうした書物にヒントを求めるのは有意義であるはず。新たな視点、より広い視野を得た上で、仕事との向き合い方、これからのキャリアをじっくりと考えてみてほしい。