ここ数年、「治療・診断アプリ」が医療用として認可されるケースが増えてきた。
先月、米ワシントン大学の研究者らが中耳炎など耳の感染症をスマートフォン(以下、スマホ)で検出できる方法を開発し、注目されている。
急性中耳炎は、病原菌が鼻の奥から耳に続く「耳管」を通って「中耳」に入り、炎症を起こす感染症だ。耳の激しい痛みや発熱、耳だれなどの自覚症状がある。聞こえが悪くなることもある。
成人の発症は少ないが、子どもの耳管は短く、水平に近いので細菌やウイルスが侵入しやすい。このため乳幼児の6~7割が小学校に入学するまでに一度はかかる。8割は自然に回復するが、痛みや苦痛をうまく訴えられない乳幼児では親の判断が重要だ。
研究者らは、市販のスマホに標準装備されているスピーカーから「ピッピッピ」という信号音を外耳道に送り込み、鼓膜からの反射信号をスマホのマイクで集音して、機械学習されたアルゴリズムで分析する方法を開発。
たとえば、中耳に炎症があり膿がたまっていると、反射音のピッチは高く、振幅が大きくなる。
結果はスマホの画面上にグラフで示される。一定の基準を超えた場合はグラフが赤くなり、受診を促すアドバイスが出る仕組み。
生後18カ月~17歳の子ども53人(98耳)を対象とした試験での診断精度は8割以上で、一般的に病院で行われている検査と同等だった。また、別の子どもを対象に親がスマホを操作した試験でも、医師が操作したときと同じ精度を保つことが確認されている。
このアプリの長所は、必要な装備がスマホと紙を丸めて作った「じょうご状の集音装置」だけという点だ。装置の広い一端をスマホのマイクとスピーカーを覆うように装着し、すぼまった一端を耳に差し入れて信号音を送ればいい。
昨今、急性中耳炎の治療は経過観察と消炎鎮痛薬の投与が主流。過剰に治療する必要はない。
手軽に経過を知ることができれば親の不安が軽減され、通院負担が減るだろう。実用化が待ち遠しいアプリの一つだ。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)