「貯蓄も必要」は30年前から
常識だったはずである

 このような情報には一切耳を塞ぎ、「年金だけ払ってればチャラヘッチャラ」と余裕をかましている人がいるということは、彼らをそう信じさせるだけの何か強烈な「ミスリード」があったということなのだ。

 という話をすると、「年金以外にそんな大金がいるという話の方が安倍政権のミスリードだろ」と、怒りでどうにかなってしまう方もおられるだろうが、「年金だけでは生活ができない」というのは、安倍政権の年金運用破綻が引き起こした「不都合な真実」でもなんでもなく、かれこれ30年以上前から当たり前のように言われ続けてきた「常識」なのだ。

 例えば、1984年、郵政省が出した資料の試算によると、当時の60歳以上の預金目標額は2050万円だが、実際の60歳以上の平均預金は884万だった。そして、当時の平均余命から60歳以上が亡くなるまでの約19年で必要とするのが5885万円と試算し、その19年間の厚生年金支給額が概算で3265万円なので、不足額が2619万円だとそろばんを弾いている。

 これを受けて、当時の参議院の委員会で、自民党から日本新党、新進党、民主党へと渡り歩いた松岡満寿男議員は、労働省(当時)の官僚に以下のように質問している。

「六十歳以上の方で二千万ぐらい要するに預金をしておきたいと。しかし、実際八百万だという。その二千万がたまたま不足額に、大体十九年間生きるとしてなってきておるんですね。そうすると、やはり年金だけでやっていくというのは非常に難しい。そのために預金をしておるという現実があるのか、どうなのかよくわかりませんけれども、少なくともそういうデータが出ているようなんですが、我が国の年金のレベルというものが一体どうなんだろうか」(国民生活・経済に関する調査特別委員会高齢化社会検討小会委員会 1984年04月25日)

 熱湯風呂の前で「聞いてないよォ」とゴネるダチョウ倶楽部が、実は番組スタッフと綿密に段取りを打ち合わせしているのとまったく同じで、「年金だけで生活できないなんて聞いてないよォ」と驚く野党の皆さんも、実は国会での論戦や、官僚から耳にタコができるほど聞かされた話なのだ。

 では、30年前は当たり前だった「年金以外にも貯蓄が必要」が、なぜいつの間にか「年金だけで死ぬまで安泰」になったのか。

 いろいろな意見があるだろうが、筆者は小泉政権時代に政府が年金改革で掲げた「100年安心」というキャッチフレーズが招いたミスリードだと思っている。