売上よりも企業文化を優先する決断の背景
大きな大学やオフィスもあるゲインズビルで、スチューデント・メイドは急成長を遂げたようですね。特に大学生の出入りが集中する転出シーズンは、需要が集中して臨時に多くの学生を採用したことが、大切にしてきたスチューデント・メイドの企業文化に深刻な問題を引き起こした。その時、あなたは売上を失うような決断をした。それはどのような背景だったのでしょう?
多くの人は、家族と過ごす時間より仕事に時間を投じているでしょう。一方で信頼できる人と仕事を楽しみ、貢献している実感を持っている人はどれだけいるでしょう。残念ながら、それほど多くはないのが現実なのではないでしょうか?
私たちは、そんな仕事の時間こそ大切にすべきなのです。それもトイレを掃除する時間となればなおさらです。だからこそ私たちは、企業文化を大切にし、胸を張れる職場をつくっているのです。
スチューデント・メイドは、ピーク時には5~6百人がいたことがあります。清掃サービスは低収益ビジネスであり、利益を増やそうとすると大きな契約を取らねばなりません。しかし、大企業は、厳しい労働環境、キツいスケジュール、そして従業員をひどく扱うことが多いので、ハッピーでない、ストレス過多のメンバーが増えます。これではやる気が起きませんよね、私も嫌です。
ですから、会社を救うため、そうした契約を断り、規模を縮小しました。勇気をもって成長をしないことを選択し、企業文化を守ることにしました。スチューデント・メイドがある周辺地域(いまでは全米の様々な地域からリクエストが来る)では、口コミのおかげで私たちにこの仕事をやって欲しいというリクエストを受けることもあります。それでも拠点も増やしません。いまは百人ほどですが、とてもよい企業文化だと自負しています。
スチューデント・メイドの売上のほとんどは掃除ですが、リーダーシップ教育のコストもかかりますから、相場より高い価格で提供しています。個人客には、掃除の担当メンバーを気に入ってご指名で、留守番や犬の世話ほか掃除以外のコンシェルジェサービスを頼んでくる人もいます。教育に力を入れている私たちに共感して、発注してくれる大学教授もいます。お客様とよい関係がつくれていると思います。
チームリーダーの最大の課題は、ゴキブリだらけの冷蔵庫でも、厚さ数センチのほこりでもなく、配属された新人を管理することだった。悪いリンゴが1個か2個、紛れ込んでいるという話ではない。リンゴ農園が丸ごと、臨時雇用の新人ばかりだった。
清掃の点検や進捗の確認に出向いたリーダーは、昼寝をしている人にも、メールに夢中な人にも驚かなくなった。けんかをしている人、サボっている人、ポップコーンを作っている人、スマホで映画を見ている人。すでに誰もいないときさえあった。
もちろん、全員がそうだったわけではない。転出シーズンに臨時で雇った学生の中にも、優秀な人はいた。素晴らしく優秀な人もいた。だが、あくまでも例外だった。大半の人は注意しても聞く耳を持たず、無遠慮で、「礼を重んじる」には程遠かった。私たちのコア・バリューのすべてと正反対だったのだ。
(『離職率75%、低賃金の仕事なのに才能ある若者が殺到する 奇跡の会社』209ページ)