「成績優秀な大学生が自宅やオフィスをお掃除します」。フロリダ大学の学生が創業した清掃サービス会社、スチューデント・メイド。創業から10年、“非常識なまでに徹底した、社員を大切にする経営”により、全米で大評判となった同社の採用面接には、今やミレニアル世代を中心にさまざまな世代が押し寄せるという――。この連載では、同社の創業者、クリステン・ハディードの著書『離職率75%、低賃金の仕事なのに才能ある若者が殺到する奇跡の会社』(クリステン・ハディード著/本荘修二監訳/矢羽野薫訳)の記事からその驚くべきストーリーやノウハウを紹介し、同書にインスパイアされた各回で活躍されている方のインタビューを掲載していきます。今回は、ご近所助け合いアプリのサービスを運営する角田千佳さんが、2回にわたって『奇跡の会社』の読書体験をシェアしてくれます。その後編です。(構成/西川敦子、撮影/タキモトキヨシ)
感情を持ち込める仕事ってすばらしい
エニタイムズ代表取締役
慶應義塾大学法学部政治学科卒業。新卒で野村證券株式会社に入社し、株式・債券等の営業に従事する。その後、株式会社サイバーエージェントにてPRプランニング業務の経験を経て、”豊富な幸せの尺度を持った社会の実現”を目指し、2013年5月に株式会社エニタイムズを創業。同年末に、日常の手助け需要のある人とその依頼に応えて多様な働き方をしたい人を繋げるプラットフォーム「ANYTIMES」をリリース。一般社団法人シェアリングエコノミー協会理事、株式会社アドベンチャー監査役も務める。
本荘 ANYTIMESは、「近所で、会って、助け合い」というコンセプトを掲げるシェアリング・エコノミーのアプリサービスですが、具体的にどんなサービスですか。
角田 ANYTIMESは、家の掃除や料理、家具の組み立て、ペットの散歩等、日常のちょっとした用事を個人間で簡単に依頼、請負できるアプリです。登録すると、サービスの提供と依頼の両方ができます。
サービス提供する場合は、アプリ上でサービスチケットをつくって、「夕食をつくります」「掃除をします」など自分の得意なスキルをアピール。依頼する場合は、そのサービスチケットの購入申請をします。スマートフォンアプリで簡単にやりとりができ、空いた時間、好きな時に働けるので、誰でも気軽に利用できるのが特徴です。
ユーザーは首都圏を中心に全国47都道府県におり、男女比はほぼ半々。20代後半~40代が中心ですが、人気のサービス提供者は、50〜60代の女性が多いですね。基本的に、サービス提供者(サポーター)と依頼者が初めから直接コミュニケーションをとり、仕事を実施していきます。
本荘 ライドシェアや民泊など、シェアリング・エコノミーは社会に浸透しつつありますが、効率性はともかく、人々がコミュニケーションできる点が魅力ですよね。
角田 私もいちユーザーとして頻繁に利用しているので、同じことを実感しています。自分の母親と同世代の女性に掃除をお願いしているのですが、私が娘のように思えるらしくて。「ちゃんとご飯食べているの?」と心配されることも(笑)。帰宅すると、冷蔵庫の食材を使ったレシピのメモが置いてあったこともあり、本当に第二のお母さんのような存在です。
本荘 そのあたりは、スチューデント・メイドと共通していますね。エニタイムズと違って、自社の従業員を派遣して清掃代行をしているのですが、お客との間にちゃんとコミュニケーションがある。クリステンさん曰く、“仕事に感情を持ち込める企業文化”を醸成するようにしている、と。本のなかに、こんなくだりがありました。
(連載第2回にこのくだりを掲載しています)
働くことで得られるものは、報酬や新しいスキルだけじゃないですよね。自分を受け入れ、必要としてくれるコミュニティも重要な要素では。連帯意識の強いミレニアル世代がこの会社に殺到する理由がわかるような気がします。
角田 私もここは読んでいて、とても感動したエピソードでした。“感情を持ち込める文化”をつくらなければ、ANYTIMESがめざす助け合いのコミュニティは成り立ちません。ユーザー同士の「緩やかなつながり」を築いて、薄れつつある地域コミュニティを新しい形で再構築し、孤立する単身者や高齢者の問題を解決したい、というのが創業の目的の一つでしたから。