メキシコ国旗
米国による対メキシコ関税引き上げ騒動は、すっかり過去の出来事になってしまった感がある。しかし「ひと時の悪夢」と片づけるのは早計だ Photo:123RF

主要20ヵ国・地域首脳会議(G20サミット)が近づき、米中摩擦の今後に注目が集まるなか、米国による対メキシコ関税引き上げ騒動は、すっかり過去の出来事になってしまった感がある。しかし、「ひと時の悪夢」と片づけるのは早計である。一連の騒動を通じて、トランプ政権の政策運営に伴う不透明性の高さが、これまでになく鮮明になったからだ。(みずほ総合研究所 調査本部 欧米調査部長 安井明彦)

8日間のから騒ぎがもたらした
かつてない「3つの不透明性」

 6月7日にトランプ大統領は、6月10日から予定していたメキシコに対する関税の引き上げを、「無期限に停止する」とツイートした。「メキシコからの全ての輸入品に5%の関税をかける」と宣言した5月30日のツィートから数えて8日後、トランプ大統領による突然のツイートで始まった関税引き上げ騒動は、やはりトランプ大統領によるツイートで幕を閉じた。

 かくして、前触れもなく持ち上がった関税引き上げ騒動は、その意味合いを深く考える間もなく、一瞬の嵐のように過ぎ去った。世界の関心は、まるで何事もなかったかのように、緊張高まるイラン情勢や、正念場を迎える米中摩擦に移っている。メキシコとの一件は、「ひと時の悪夢」に過ぎなかったかのように、忘却の彼方に去ろうとしている。

 もっとも、関税の引き上げこそ回避されたとはいえ、一連の騒動から読み取るべき教訓は、「ひと時の悪夢」で済ませるには重すぎる。3つの点で、トランプ政権の政策運営に伴う不透明性の高さがこれまでになく明確になったからだ。

 第一の点は、トランプ政権の通商政策は「何でもあり」だということである。本来は関係がない政策を進める際にも、通商政策上の道具が用いられるリスクが現実となった。

 メキシコに関して問題視されたのは、不法移民の急増である。トランプ大統領は、メキシコ国境を越えてくる不法移民の急増を安全保障上の危機とみなし、関税の引き上げ回避と引き換えに、メキシコ政府に対応の強化を迫った。不法移民の抑制という目的を達成するための手段として、関税という通商政策の道具が使われた構図である。