不法移民や通商問題が困ったときの「松葉づえ」だとすれば、不法移民の数や貿易赤字の増減にかかわらず、そのときの政治情勢次第で、前触れもなくトランプ大統領が強硬策を打ち出す可能性は排除できない。先行きは不透明と言わざるを得まい。

誰もトランプ大統領を止められない
変質する共和党と見て見ぬふりの民主党

 不透明性の高まりを示す第二の点は、縦横無尽に関税を使うトランプ大統領を、誰も止められなかったことだ。

 対メキシコ関税の引き上げに対しては、米国内で強い批判があったと伝えられている。政権内では、ライトハイザー米通商代表(USTR)など、多くの関係者が関税引き上げに反対していたと言われる。米議会においても、共和党の上院議員を中心に、関税引き上げを立法で阻止する可能性が取り沙汰されていた。産業界からの反発も強く、こうした身内の反乱がトランプ大統領を思いとどまらせる一因になったという。

 しかし、身内の反乱はあくまでも水面下の動きであり、トランプ大統領を正面から止めるだけの力がなかったのも事実である。確かに政権内に反論はあったが、発端となったトランプ大統領の最初のツイートは止められなかった。

 議会においても、関税引き上げを阻止するような法案の採決が、実際に行われたわけではない。むしろ、たとえ採決が行われていたとしても、特に下院ではトランプ大統領を止めるだけの賛成票は得られなかった模様である。実際には、トランプ大統領の翻意によって正面対決が回避されたことで、胸をなでおろしている共和党議員が多いようだ。

 浮かび上がるのは、共和党の変質である。本来の共和党は、自由貿易を支持すると同時に、減税を好む政党である。トランプ大統領が提案した関税の引き上げは、自由貿易に反する増税であり、共和党が容認できる余地はないはずだ。

 それにもかかわらず、共和党の議員からは、トランプ大統領の姿勢を評価する声が聞かれる。当初は上院議員による反乱をほのめかしていたマコネル上院院内総務ですら、メキシコとの合意に至った点を捉え、「トランプ大統領を評価しなければならない。(関税は)役に立ったからだ」と述べている。