一方の民主党でも、トランプ大統領を止めようとする機運は盛り上がらない。むしろ2020年の大統領選挙の指名候補を選ぶ予備選挙でも、民主党の候補者は通商政策の議論を避ける傾向にある。民主党にすれば、たとえ経済に悪影響をもたらす関税の引き上げに懐疑的だったとしても、保護主義的な主張に限って言えば、トランプ大統領は自分たちに近い。それでなくても、民主党支持者は医療保険や環境問題を重視しており、必ずしも通商政策への関心は高くない。あえてトランプ大統領との違いを打ち出し難い政策で論争を挑むよりは、見て見ぬふりをするのが得策である。

 もちろん、関税による悪影響が顕在化してくれば、議員の行動は変わり得る。共和党議員の間では、大統領が安全保障上の脅威を理由に関税を引き上げることを制限する法律の準備が続いている。水面下に止まっていた身内の反乱が大きなうねりになれば、多少なりとも不透明性は低下しよう。

自作自演の甘い記憶
トランプは悪い教訓を得たか

 不透明性の高まりを意識させる第三の点は、関税を駆使する手法に関して、トランプ大統領が「悪い教訓」を得た可能性である。

 政権内や議会に抑止能力が欠けているのであれば、トランプ大統領の自制に頼るしかない。その点で注目されてきたのが、株価や景気の反応である。株価や景気を決定的に悪化させるような展開は、さすがの「タリフ・マン」にとっても好ましくないはずだ。トランプ大統領は、就任以来の株価の上昇を、自らの成果として誇ってきた。2020年の大統領選挙を考えれば、景気の減速は再選への命取りになりかねない。

 メキシコの関税を巡る一連の騒動に対する株価の反応は、トランプ大統領に「悪い教訓」を与えたかもしれない。関税引き上げのツイートで下落した株価は、引き上げ停止のツイートで上昇に転じた。トランプ大統領にしてみれば、たとえ自分で混乱を巻き起こしたとしても、事態を収拾しさえすれば、逆に株価は好感するように見えてしまう。株価への影響を懸念するというよりも、自らの行動で株価の動きを支配できる快感を覚えてしまった可能性がある。