日本のやり方を
押し付けても成功しない

◎中国人の習慣や文化、嗜好を十分に考慮していない

 中国の介護施設や老人ホームを見学して、真っ先に日本との「違い」を感じるのは、入り口の受付周辺だ。中国の介護施設の受付は派手で立派である。介護施設の様子を見ても、かなり好みが違うことがわかる。

中国の老人ホームは入り口が豪華(紅日グループの介護施設)
中国の老人ホームはどこも受付周辺が豪華(紅日グループの介護施設) Photo by T.Y.

 元々、バレーボールのプロ選手で大分県のチーム「大分三好ヴァイセアドラー」でも活躍し、現在は上海を拠点に介護施設の設計をしている王晨氏は、「例えば、トイレの位置について、日本では介護スタッフが作業しやすい場所に配置したりするが、中国人からすると方角的に『絶対にありえない場所』に配置したりする。

昔の上海を再現した一角
昔の上海を再現した一角(紅日グループの施設) Photo by T.Y.

 また高齢者であっても、生まれが1940年代、50年代、60年代では、全然、好みや習慣が違うので、入居者によって設計を考える必要がある」と指摘する。

 設計についても「上海などの都市部では新築が難しく、既存物件の改築が中心となるため、防火対策や間取りの面で多くの制約がある。日本企業にとってはこうした面でもハードルが高い」という。

日本の老人ホームは個室が多いが、中国では多床室や2人部屋が多い
日本の老人ホームは個室が多いが、中国では多床室や2人部屋が多い。上海遐福養老院で撮影 Photo by T.Y.

 そもそも日本の介護では「残存機能の維持」「自立支援」といった、高齢者には自分でできることはなるべく自分でやってもらい、それをサポートするのが理想とされている。しかし、こうした考えはなかなか理解されないことが多い。

 それをきちんと説明せずに、頭ごなしに介護スタッフに命じたり、利用者や家族に強要しても、トラブルになるだけである。

中国の老人ホームで麻雀を楽しむ高齢者
中国の老人ホームで麻雀を楽しむ高齢者。上海遐福養老院で撮影 Photo by T.Y.

 介護は生活に密着した「究極のサービス業」であり、しかも属人的な要素の影響も大きい。日本のやり方を強引に押し付けてもうまくはいかない。

◎コスト意識やビジネス感覚に乏しい

「日本の介護は素晴らしい。しかし、それは介護保険制度がある日本だからできること」――。こうした声は何度も聞いた。

上海市の老人ホームの中庭を散歩する高齢者 
上海市の老人ホームのテラスを散歩する高齢者。上海遐福養老院で撮影 Photo by T.Y.

 日本は介護保険制度という公的サービスが導入されており、その収入を前提に介護ビジネスが行われている。介護保険は、中国でも上海市など一部の都市で始まっているが、カバーできる範囲も狭く、日本ほど手厚いものではない。

 アジアの介護事情に詳しいデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーのアドバイザー、細見真司氏は「そもそも日本では、介護は『ビジネス』よりも『福祉』という考えが強い。そのために、欧米企業に比べると、どうしてもコスト意識やビジネス感覚に欠けている。介護保険制度に守られている日本の介護事業者は『高くて良いもの』を提供するノウハウはあるが、『安くて良いもの』『値ごろ感あるのサービス』を提供するノウハウには乏しい」と解説する。

 加えて「国際的なビジネスが展開できる人材も圧倒的に不足している」「欧米企業に比べると資本があまりに脆弱で、腰を据えた事業展開がなかなかできない」などの問題点も指摘する。

 実際コスト面に関しては、前述の紅日グループでは認知症ケアを強化するため、日本から「認知症のスペシャリスト」を招いて、そのノウハウの導入を検討したが、「とても採算に合わなかった」(陳琦董事長)として断念している。