しかし、実際の現場では、誤嚥性肺炎で入院してくる患者さんの平均年齢が80代後半~90代とあまりに高齢かつ重症で、姿勢の改善どころではないという状況でした。
 猫背に腹臥位療法が効果的なのはわかっても、そもそもうつぶせになること自体が難しかったのです。

 もう1つネックになっていたのが、在院日数の短さです。
 現在、病院は医療費を削減するために、どんどん早く退院させる方向に動いています。
 私のいた病院でも平均在院日数は14日前後。海外ではうつぶせ姿勢なども取り入れたヨガやピラティスで効果が現れるのは3~6ヵ月後とされています。
 実地での感触としても、効果的な施術を行うのに14日ではあまりにも短いと感じていました。
 また、脳梗塞による半身麻痺や整形外科手術後に歩けなくなった方のリハビリ現場でも、うつぶせ姿勢を省いてしまう傾向があります。
 ある程度起き上がれるようになると、次は車椅子に乗り、そこから歩く練習や階段の昇り降りの練習に移ってしまうのです。
 こういった患者さんの多くは、自力で歩くことはできても、うつぶせになることができないというアンバランスさを抱えたまま退院される場合があります。

 現実には、うつぶせになることができなくても日常生活を送ることはできます。
 それでも根本的な姿勢や筋力の改善をしていかなければ、のちに再び症状が出てきたり、無理な姿勢を続けて体のバランスがさらに悪くなってしまったりということが起こりえるでしょう。
 うつぶせ姿勢になることだけが重要なのではなく、うつぶせになるために自分で体を傾けたり、うつぶせの状態から起き上がるという一連の動作が、実は普通に歩いたり座ったりするよりも多くのさまざまな筋力を使うのです。

 赤ちゃんの発達から考えても、人間は本来、うつぶせやよつばいができないと体の筋肉のバランスが取れないのは明らかです。
 こういった現場を数多く見てきて、私はやはり早くからの予防が必要だと悟りました。

「寝たきりになる前に、もっと若いうちから何とかできないのだろうか?」

 この答えを日々模索する中、海外ではヨガやピラティスによる姿勢改善が広く浸透していることを知りました。
 ヨガやピラティスでも、うつぶせでのポーズやエクササイズが数多くあります。
 そこでこれを私の専門である呼吸リハビリ的な要素と合わせて、日本でもっと広めたいと思うようになったのです。

 私は市の高齢福祉課の介護予防事業にも携わらせていただくことがありますが、まだ介護の必要がない比較的元気な方でもうつぶせになれない人が多くいらっしゃいます。
 市が主催する体操講座では、集団で座っての体操はするものの、うつぶせの姿勢になることはありません。
 私は寝たきり予防の観点から見ても、転倒防止につながる下半身の筋力強化だけでなく、呼吸機能の改善や猫背予防の取り組みも大切だと考えます。
 ただし、そういった取り組みとして、うつぶせを介護予防の領域に積極的に導入しているところはまだまだ多くはないと思います。

 現在の活動に至るもう1つの大きな背景として、義理の両親を誤嚥性肺炎で亡くしたという経験があります。