社会人が大学院進学を考える時に、2つの方向性が考えられる。ひとつは、現在の仕事の延長線上で、可能性を広げる事。つまり、転職も視野に入れたキャリアアップ型の大学院である。MBAを代表として、社会科学系大学院への進学はこの色彩が強い。
もう一方では、大学院を経由することで、全くのキャリアチェンジを果たすという方向だ。未修者を本来の対象とする3年制の法科大学院などは、その意味合いが強いだろう。
MBAの大学院=ビジネススクールと、法科大学院=ロースクールは、このように方向性は違いながらも、根っこの部分で通底している部分がある。似ているのは、必ずしも学部教育に基礎を置いていないということだ。すなわち、文学部国文学科で中世芸能史を学んだ卒業生であったとしても、外国語学部サンスクリット語学科であったとしても、それが理由で不利になることはないだろう。大学院入学がスタートライン、というのは、極めて社会人にとって都合がいい。ある種、アメリカ的なのである。
大学院はゼロからの
キャリアチェンジが叶う場所
アメリカの大学では、学部課程はおしなべて一種の教養課程である。学ぶのは「教養(リベラルアーツ)」だ。ローもビジネスもメディカルも、本格的に学ぶのは大学院からなのである。ビジネススクールやロースクールなど、近年になって日本に根付いたプロフェッショナルスクール型の大学院には、その影響が色濃い。つまり社会人にとって、ゼロからのキャリアチェンジまでをも可能にする教育機関、人生リセット装置なのである。大学院はライフロングに、人を変える事ができる。
そう考えると、ビジネスパーソンの大学院選びは、必ずしも社会科学系である必要はない。全くの門外漢が、大学院を経る事で、ある道のスペシャリストになる。それによって必然的に仕事も変り得る、ということは可能なのだ。
本当はいまの仕事が嫌で嫌でしょうがないが、とりあえずいい会社に正社員で入れたから辞める踏ん切りが付かない、というような人間は、現在の職を保険としながら、大学院でキャリアチェンジを図るというタクティクスを採るといいいだろう。そうした意味で、この分野がどうしても学びたいから大学院へ、という強い志向があるひと以外は、非・ビジネス系に思える大学院でも昼夜開講や夜間、通信制の大学は、ひとつひとつ検討するのに値する。