難関校に不可避の図形問題
東大合格者数を競う進学校型の難関中高一貫校では、高度な図形問題がよく出題される。
首都圏の男子校では、筑駒、開成、聖光、栄光、駒東などが高度な図形問題を出題し、女子校では、豊島岡女子や以前とりあげたフェリス女学院が男子校なみの立体図形問題をよく出題する。それらの学校の図形問題は、受験者が自分自身で図を描き、その図を使って問題を解く「作図」を前提とした出題である点に特徴がある。
このように、難関校受験生は図形を避けて通れない。また、こと図形問題に関しては、西高東低の傾向があり、灘を筆頭に関西の超難関校は首都圏の難関校以上に高度な図形問題を出題する。
その理由は、真面目な受験生以上に「賢い受験生」に来てもらいたいという出題者側の意図がある。さらには、東京大が難関大学では珍しく、図形を重視した問題を出題し続けているという事情が背景にあると思われる。
手順の習得が中心で時間をかければ誰もができるようになる代数系分野に比べて、発想・着眼など脳の働きが大きくものをいう幾何系分野では一定程度の賢さが必要とされる。
ところが、中学受験塾の最上位生でも、図形問題に苦労する生徒が少なくない。それはなぜか。
図形を正しく描けないからである。多くの受験生は6年生の2学期になって、学校別志望校判定模試や志望校別特訓授業の中で、ようやく図を正確に描くことが大前提という事態に直面する。その時期になって、ようやく、図形を正しく描くことの必要性を経験することになるが、それでは遅いと思う。
なぜか。
一部の賢い受験生は、受験までの数ヵ月間で、図を正しく描くことを習得してしまうが、多くの受験生は、平面図形の折り返し、回転、立体図形の切断、回転体、展開図、投影図、共通部分の作図、影の作図など、洪水のように押し寄せてくる図形分野で、「描けない、だから解けない」という事態に直面して右往左往する。そして、出くわした問題そのものをなんとか覚えるという勉強に追われることになる。
難関中学の、自分で図を描いてから解く「作図」問題(折り返し、回転、切断、展開図・投影図など)では、図を正しく描けないと正答には至らない。
しかも、普段の、塾生全員が受ける問題数の多いテスト(例えば1題6点の小問25題からなる150点満点のテスト)と違って、図形問題では何が起こるのか。例えば、大問4題中の1題として作図問題が出題されたとする。図を描くのに一定程度時間がかかり、自分で描いた図を使って解く場合、正しい図を描けない受験生は長さや面積・体積を計算する時間のすべてが無駄になる。
こうした作図問題に手をつけなければ得点できないだけで済み、時間を失うことはないのだが、正しくない図を描いてしまうと、図でも答えでも得点できないだけでなく、時間を失うという挽回不可能な危機的状況に陥ることになる。
自分は、受験までのわずかな期間でこうした事態を乗り切ってしまえるというような有能な受験生であれば、6年生の秋からの特訓に身をゆだねるという受験準備でかまわない。
それでは心配だという普通の受験生は、その時期からの特訓でなんとかなると思わない方がよい。
では、いつから<正しく図を描く>ことを心掛けるべきなのか。
もちろん、勉強がスタートしたときから、である。理想は、答えを出す必要がある問題を解く前の時期からである。
その理由は、子どもは早かれ遅かれテストで点を取ることに大きな意味を感じ、それによってクラスが移動するような厳しい環境に放り込まれることになり、<答えが合っていることがすべて>という時期がくるからだ。
「答えが合っていれば、いいじゃん」
「でも、答えは合っているよ」
と子どもが言い始める時期になってからでは、大人はほとんど矯正できない。
できれば、そう言い始める前に、図を正しく描くことの大切さを分からせ、図を正しく描くという意識を芽生えさせて、<正しく描くことが図を描くこと>と理解させるのが望ましい。