「人口の重心の移動に伴い、時代の空気が変化する」(ドラッカー名著集(5)『イノベーションと企業家精神』)
急速な社会の高齢化は、何をもたらすのか。高齢化社会の到来を、「見えざる革命」と名づけたドラッカーは、三つの変化を教える。
第一が、空気の変化である。ドラッカーは、時代の空気を規定するものは、すでに最大であり、かつ現に最も急速に増大しつつある人口層だという。
かつて、そのような人口層は、若年層だった。そのため、単なる若年層一般の特徴にすぎないものが、時代の特徴とされ、時代の空気とされた。ひいては、それが社会の空気とされ、永続すべき空気とされた。著しきは、文明そのものの空気とされた。
だが今日、そのような人口層は高年層である。いまや、時代の空気、社会の空気、永続すべき空気となるものは、高年者のそれである。その空気によって最も動かされるのが政治である。
第二が、労働力の変化である。すでに、社会の多様性を追求するダイバーシティなる耳なれないカタカナが登場し、高年者と女性の就労促進が正面から論じられるようになった。
加えて、外国人労働者の受け入れが問題となった。SARS騒ぎのときは、中小企業が外国人労働者の払底に音を上げた。今日では、看護と介護の世界で労働力不足が切迫している。さらには、ライフラインの維持のための労働力確保までが怪しくなっている。
日本社会へ外国人を入れることは、もはや好き嫌いを言っていられる段階を過ぎた。こうして労働力の不足が社会を変える。しかし、すでに外国人労働者を抱えている企業、産業、地域がある。われわれは、大至急、それらの経験から学ばなければならない。
そして第三が、もちろん市場の変化である。人口構造の変化は、イノベーションの機会をもたらす。
人口構造が変わるということは、すなわち市場が変わるということである。その市場の変化が、経済を変える。そもそも企業の目的は、顧客の創造である。
「現場に行き、見て、聞く者にとって、人口構造の変化は信頼性と生産性の高いイノベーションの機会となる」(『イノベーションと企業家精神』)