「本質を見抜く」ためのアドバイス

 本書の著者、バルファキスは娘に語りかける。

 大人になって社会に出ても精神を解放し続けるには、自立した考えを持つことが欠かせない。君がその自由を持てるかどうかは、経済の仕組みを知っているかどうかと、次の難しい問いに答えられるかどうかによって決まる。
 その問いとは、「自分の身の回りで、そしてはるか遠い世界で、誰が誰に何をしているのか?」というものだ。
『父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』より。太字は引用者)

 バルファキスは、「外からの視点」を持つことが、自由にものを考えるうえできわめて重要だと説く。そうした考え方から、娘には「クセニア」(ギリシャ語で「異邦人」の意)という名をつけたほどだ。

 そして世の中で一般的に語られていることに流されず、社会のありのままの姿を見れるようになるために「精神的にはるか遠くの場所まで旅をしてほしい」と娘に語る。本書でバルファキスが膨大に引用しているようなギリシャ悲劇やローマ神話から、文学作品や映画等、さまざまな教養に触れてほしいということだろう。

 そうはいっても、人の思考は環境に依存する。いまいる社会の支配的な論調からまったく離れてものを考えることは簡単なことではない。では自立した考えを持つにはどうすべきか。著者は大事な秘密を示している。

 経済の仕組みを知ること、そして「自分の身の回りで、そしてはるか遠い世界で、誰が誰に何をしているのか」を考える能力が、「精神の自由」、つまり「本質的にものを考える力」の源泉になるというのだ。

 人を判断するうえで、口先の言葉はいったん措いて、その人は「誰に対して何をしているのか」を検討するのだ。政治家がいくら耳当たりのいい言葉を語っていたとしても、では、その人物は現実に「誰」に「何」をしているのか(しようとしているのか)と考えると、見え方が違ってくる。これはまさに、人物や世の中の本質を見抜くうえで武器になる考え方だ。今回の参院選の投票においても、ぜひ参考にしてほしい。