隣戸に逃げる経路は
確保できているか?

 また、マンションでは、非常時にはベランダに出て、隣戸との仕切りの板(「隔て板」と呼ぶ)を蹴破るなどして逃げるという避難経路が設定されているが、実はこの隔て板、意外と硬くて、非力な女性や高齢者、子どもの力では容易に蹴破れないことをご存じだろうか?

 ぜひ、避難訓練の際には、隔て板を蹴破ってみる機会も設けて、実際にどれくらい硬いかを、住民の皆さんで確かめていただきたい。最近では、蹴破るタイプではなく、レバーを回して板を外せるタイプも発売されている。大規模修繕に合わせて隔て板を交換するのも手だろう。

 そして最後に煙対策。いざ火災に遭遇した場合、焼かれる以前に煙を吸い込んでしまい、一酸化炭素中毒で亡くなる方が少なくない。火災現場でもうもうと立ち上がる黒い煙で、人間はわずか1〜2分で簡単に意識を失い、死に至る。

 もし不幸にしてそんな現場に遭遇してしまった場合には、ぜひビニール袋を口にあてて、袋の中で呼吸していただきたい。これで数分間は持ちこたえられるから、逃げるための時間稼ぎに有効だ。私は不測の事態に備えて、いつも財布の中にビニール袋を折りたたんで持ち歩いている。

 京アニのケースのように、ガソリンを撒かれるという事態は、そうそう起きるものではない。しかし、火災の危険性はどんな建物でも少なからずある。「あのケースは特殊だった」で終わらせず、この事件から得るべき教訓を得ていただきたいと願う。