同業他社への売却にはデメリットも

「でも、私の人脈でもっているような会社、売れるわけないですよね?」
 買い手企業は、対象の会社を慎重に値踏みするものです。いくら丁寧に引き継ぎを行うとしても、新規顧客を獲得する仕組みや、新たな収益源の可能性を実証していかないと、なかなか広がりを感じてもらえません。

 誠実なオーナーだからこそ、自らが丁寧に顧客と接し、厚い信頼を得ているこの会社の灯を決して消さないよう、心して臨むことにしました。

 売却先は、同業大手から異業種まで、海外企画旅行会社への興味の有無を広く当たっていきました。その過程で、各社の事業へのスタンスがわかってきます。

 同業は、仮に売買が成立したとしても、既存部署への統合や、サービスレベルの共通化を図ろうとします。しかし、それではこの会社の「手作り感満載」のツアーの特徴を殺してしまい、従業員の切り捨てにもつながる可能性があります。

 オーナーは「顧客を大事にしてくれる」点を最重要視していました。オーナーにとって顧客は長年の友人なので、丁寧に顧客を扱ってくれないと困るからです。そして、これまでと同じように手作り感満載のツアーを継続できるのは、現在の従業員がいてこそ。同業には、それを実現できる可能性が感じられませんでした。

 新興市場に上場している伸び盛りの会社は、この会社のインフラを使ってさらに事業を拡大することを考えます。

 これまではオーナーが趣味の延長線上でビジネスを展開してきたから伸びなかっただけで、ゴルフツアーだけでも3倍の売上が期待できる。営業利益も4000万円から5000万円は十分に上げられる。さらにコスト低減のため、社員がツアーに帯同することをやめ、現地の人に任せて合理化を図ることが明らかでした。

 オーナーは、ツアーに参加する顧客が1人でも2人でも、一緒に回ることで顧客とのつながりを作り上げてきました。オーナーもこの会社のカルチャーを守りたいと考え、それを期待している顧客もいまだに多い。収益至上主義、合理主義の買い手には売却したくないと拒否されます。

 自分の思いを継いでくれる売却先はないのか。あきらめかけたときに名乗りを上げた企業がありました。