復帰してみると、担当していた仕事は後輩に引き継がれていた。ただ職場にいるだけで、誰にも認めてもらえていないように感じているという。

 話題を変えようと、著者が剛さんの話題を振っても、反応は芳しくない。「夫婦の関係に何か変化が生じているのではないか」――そんな疑念が芽生えた。

◇「妻のことがわからない……」

 剛さんへの取材が実現したのは、翌年のことだった。夫婦関係について尋ねると、剛さんはこう答えた。「恥ずかしいんですが……妻のことが、よくわからないんです。妻が何を考えていて、どうしたいのか、僕にはどうしてもらいたいのか……」

 剛さんもまた、仕事と家庭の両立に悩んでいた。仕事が忙しくなったことで、もはやワーク・ライフ・バランスの実現は夢物語になっていた。子育てに関しては、週に1、2回、出勤前に子どもを保育園に連れて行く程度だという。

 まゆみさんへの取材はなかなか実現せず、数年にわたって剛さんからのみ話を聞いた。剛さんによると、まゆみさんは依然として子育てと仕事の両立に悩んでおり、夫婦の会話も十分にできていないということだった。

 剛さんは、「妻に歩み寄らないといけないと思って」積極的にコミュニケーションを取るようにしており、ほぼ等分に育児を分担してもいるという。そのおかげでまゆみさんも少しは気楽に仕事ができているのではないか――それが彼の見立てだった。

◇がっかりされたくない妻、存在証明したい夫

 それから2年近く経ったころ、夫婦そろっての取材が実現した。まゆみさんは、「時間はかかりましたが、少しずつ夫婦互いに悩みやつらいことを話し合えるようになって、やっと関係改善に向けて前進し始めたので……」と口火を切った。キャリアに悩んでいたものの、剛さんには相談することができなかった。それは、両立を応援してくれている彼をがっかりさせたくないという思いがあったからだという。

 続けて、剛さんも悩みを打ち明けた。仕事でも家庭でも自分が存在する価値を見出せず、「イクメン」になることで、自分自身の価値を証明しようとしていたという。

 最後に夫妻は、仕事も家庭も完璧を求めず、自然体で子どもの成長を見守っていきたいと締めくくった。不安や葛藤を抱えながらも、お互いに向き合おうとしていることが見て取れた。