長尾能雅医師(名古屋大学医学部附属病院副院長、医療の質・安全管理部教授)長尾能雅医師(名古屋大学医学部附属病院副院長、医療の質・安全管理部教授) Photo by Hiromi Kihara

名医やトップドクターと呼ばれる医師、ゴッドハンド(神の手)を持つといわれる医師、患者から厚い信頼を寄せられる医師、その道を究めようとする医師を、医療ジャーナリストの木原洋美が取材し、仕事ぶりや仕事哲学などを伝える。今回は第14回。「医療安全」のパイオニアとして全国的に知られる名古屋大学医学部附属病院副院長で医療の質・安全管理部教授の長尾能雅医師を紹介する。(医療ジャーナリスト 木原洋美)

「逃げない 隠さない ごまかさない」
名大病院の情報公開の衝撃

「ここまで公開して大丈夫なのか」

 2019年2月25日(月)放映の「プロフェッショナル仕事の流儀」(NHK)に、驚いた人は少なくなかっただろう。全国の国立大学医学部で初となる医療安全専従の教授・長尾能雅先生の職場・名古屋大学医学部附属病院(以下、名大病院)で頻発するインシデント(医療ミス)を示す画像がはっきりと映し出されていたからだ。

 それは患者の体内に残された鉗子やガーゼ等が写った何枚ものレントゲン写真。しかも、こういう置き忘れ事故が今なお、「年に7件も起きている」という。

 番組ではさらに、その前の週に発生した原因が特定できない死亡事例について医療事故かどうかを検討するための会議も公開された。担当医をはじめ病院長、幹部が参加した議場には、緊迫した空気が流れ、率直な議論が交わされる。こんな場面は、医療ドラマ以外では見たことがない。

 公開の背景にあるのは、「逃げない 隠さない ごまかさない」という、病院に貫かれたポリシーだ。

 名大病院は02年に起きた腹腔鏡下手術での死亡事故への対応をきっかけに、このポリシーを打ち出した。事故と正面から向き合い、再発防止に取り組む姿勢を示したのである。