「編集長によってコンセプトが大きく変わるのは、『文藝』の美徳でもあるんです。特集をやっていた時代を見ても、80年代は現代思想や当時のニューアカデミズムに接続したテーマを、J文学という言葉を仕掛け始めた90年代は階級闘争や赤軍など、本当にさまざまな特集をしていました。そういった先輩方が作り上げた歴史があるので、今回も思い切ってできたのかなと」

 表紙についても、20年ほど前のものを見ると、フォトグラファーの常盤響さんが担当するなど、文芸誌とは思えない攻めのデザインとなっている。大きく反転させて新しさを追求するのは、むしろ『文藝』の伝統そのものかもしれない。

 坂上さんは「中堅規模で予算も少ない出版社だからこそ、どう新しいことをやるか。そこで成功してきたのが『文藝』の歴史だと思います」と言う。大幅リニューアルも、その線上の出来事だろう。

 ちなみに、河出書房新社は70人規模であり、縦割り的なセクショナリズムが弱い組織だという。「隣の人がどんな本を手がけているか、何となくみんな知っている」とのことで、だからこそ海外作品の版権をすぐ買ったり、今回のように海外の作家の書き下ろしを多数載せられたのかもしれない。

 加えて、他の出版社では、文芸誌とそこから派生する単行本を別々の編集者が担当するのが一般的だが、「私たちは『文藝』の編集をやりながら、単行本の編集も手がけています」という。編集者として単行本をつくるプロセスにおいて、その最初の部分、タネを見つける位置付けとしての『文藝』でもある。

「どちらにも良し悪しはあると思いますが、雑誌から単行本まで、同じ作品を一人の編集者が見るのは良い部分が多いと感じますね。作品がゆりかごから成長していくまでずっと携われるので、いろいろな展開もしやすいと思います」

 ちなみに、大ヒットした秋季号も新しい展開を考えている。この特集を充実させて11月に単行本化する方向のようだ。もちろん『文藝』自体も、次の冬季号に向けてまた企画を練っていくという。

「○○離れ」に代表されるように、時代の中で“逆境”ばかりが取りざたされる業界は多い。出版業界もその1つだが、そんな中でもこういった事例は生まれている。『文藝』のヒットを生んだ「今の時代に、ゼロから作りなおす」発想は、どんな状況でも逆転のチャンスがあることを教えてくれる。