「空になりたい」学生たち
「昔のほうがよかったなあ」というのは、おそらく今に限らずいつの時代にもいわれてきたことでしょう。昔のほうが、ずっと物事がうまくいっていたし、人は幸せに暮らしていた。ある程度の年齢に達すれば、オトナはみんなそういうことを口にするものです。
が、そうはいっても、何をやっても八方ふさがりでうまくいかないというこの状況は、今の時代に特有のものなのではないか、と思わずにはいられません。「それは単にアンタが歳を取っただけだろう」というツッコミが飛んでくるのを覚悟のうえでいうわけですが。
毎年、大学一年生向けの最初の授業で、次のような質問をします。
「何にでもなれるとしたら、今、何になりたい?」
いつも様々な答えが返ってきますが、ここ数年の傾向として「ネコになりたい」「空になりたい」「木になりたい」など、人間以外のものが目立ちます。もちろん「レディー・ガガになりたい」「宇宙飛行士になりたい」と無邪気に答える学生もいるものの、やはり動物、植物、自然現象などが多い。
学生たちに「どうして空なの? 空は自分が空ということを意識できないかもしれないよ」。そう聞くと、「そんなこと、どうでもいいんです。とにかく楽になりたい。何も考えたくない」なんて、いうわけです。
もはや自分の意思や自我さえもきれいさっぱり捨て去ってしまいたい、ということなのでしょうか。特に深く考えて答えたわけではないのでしょうが、学生たちの言葉には、何か本質的なことが含まれているように感じます。
何をやっても何も変わらない。何もよくならない。それならば、いっそのこと何も考えず、何もしないほうがいいんじゃないか。そういうどうにもしがたい絶望感を学生たちは「空になりたい」と表現したのかもしれません。