佐宗 なるほど。実際に、新たな流れが起こっている体感はあります。僕の本と同時期に発売された野中郁次郎先生・山口二郎先生の『直観の経営』(KADOKAWA)なども、フッサールの現象学をベースにしながら、「主観を大事にするものの見方」が提示されていますよね。この背景にあるのは、「すべてがつながってしまう環境」が世界に実装されたことで、あらゆることが「複雑系」化してきたという事情ではないかと僕は考えています。

山口 そうですね。端的に言えば、「日本の近代」がようやく完全に終わったということなんじゃないかと思います。

「データ」しか語れないリーダーは、
人を動かせなくなる

佐宗邦威(さそう・くにたけ)
BIOTOPE代表。戦略デザイナー。京都造形芸術大学創造学習センター客員教授
大学院大学至善館准教授東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科修了。P&G、ソニーなどを経て、共創型イノベーションファーム・BIOTOPEを起業。著書にベストセラーとなった『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』(ダイヤモンド社)など。

佐宗 情報量が多すぎるせいで、頭だけではもう正解を判断できない現代のような構造下では、山口さんが『ニュータイプの時代』で書かれているように、人間が「野生の直感」や「身体的な賢さ」を取り戻せるかどうかが重要になってくると思います。

「頭」のモードでこの世界を生きようとすると、あらゆるものに反応せざる得なくなりますが、それでは追いつきません。自分の「身体」に刻み込まれた感覚で、良し悪しを判断するしかないでしょう。

とはいえ、人を動かしていくフェーズではコミュニケーションや論理も必要ですから、結局のところ、この両方をうまく使える人が、不確実な状況のなかでリーダーになっていくのでしょうね。

山口 人を動かすことに関しては、私は「データ」と「ストーリー」という対比をしています。妄想を人に伝えるときって、「データ」で伝えることもできれば、「ストーリー」で伝えることもできる。これまでは「データ」を使ってロジカルに訴えることが高く評価されてきましたが、これからは、いかに妄想を「ストーリー」として伝えられるかが大事になっていくのではないでしょうか。

たとえば、1963年にマーチン・ルーサー・キング牧師がリンカーン記念堂の前で行った有名な演説がありますよね。「黒人の権利を回復すべきだ」と主張したいのであれば、「大学の進学率は白人と黒人はこんなに違う」「一部上場企業の管理職に就いている率がこんなに違う」などデータで語ることもできます。

しかし、キング牧師の演説は「I have a dream.(私には夢がある)」という「妄想」からはじまるんです。ジョージアの丘の上で夕陽を見ながら、黒人奴隷の子孫と奴隷のオーナーだった白人の子孫とが一緒にテーブルについて、夕食を食べながら人類の自由と未来について語り合っている――そういう光景が、キング牧師には見えるという。

これがデータを比較しただけの演説だったら、後世まで残っていなかったでしょう。

佐宗 「妄想」を表現するときには、僕もビジュアルとストーリーを組み合わせていくことが必要になると思っています。ビジュアルは視点の切り替えに適していますし、ストーリーは人の価値観や感情を動かすうえでは欠かせませんからね。