リーダーには「見えないものを見る力」が不可欠

山口 しかし、どんなにいいビジュアルやストーリーがあろうとも、リーダーにはまず「妄想」がなければならない。私は「旧約聖書」と「新約聖書」は、リーダーシップのよいテキストだと思っています。

たとえばモーセというのは、「自分だけのビジョン」が見えている人ですよね。エジプトでヘブライ人たちは奴隷となって虐げられていますが、「でも毎日の食事は与えられているし、まあいいか」と誰もが思っている。しかしモーセだけには「パレスチナには乳と蜜が流れていて、そこに自分たちの国をつくるんだ!」という「妄想」があるわけです。だからこそ、みんなを率いてエジプトを出ることになる。

聖書のテーマの1つは「移動」です。移動先がどういう場所なのか、リーダーには「見えて」います。それで確信をもって移動していくのですから、妄想力はリーダーにとって重要です。

【山口周×佐宗邦威】“昭和的優秀さ”ではもうリーダーになれない

佐宗 妄想力は、モーセのように不確実な時代を一点突破するために必要な力だと思っています。最近、僕は「妄想を起点にした創造一点突破」という言葉を使っているのですが、妄想の実現に向かって自分にしか見えない道を一点突破して歩んでいく、というイメージをみなさんが持ってくれたらうれしいです。

山口 妄想には妄想独自の「市場原理」がありますよね。だからこそ、いい妄想には「人」も「お金」も集まってくる。そうすると、妄想の実現性が高まって自己成長していくようなサイクルが回り出すようになる。

とはいえ、やはり、自分自身の妄想に気づくには、佐宗さんが言うところの「地下世界」に一回降りないといけない。その勇気がなかなか……という人は多いでしょうね(笑)。

佐宗 そこが一番難しいですね。でも「降りる」人はいるわけです。人は光ばかりを浴びてはいられませんから、どこかで「降りる」ことにはなると思うんです。

人の役に立つことをやる世界というのは、光ばかりで眩しいですから、自分がどんな光を放っているのかが見えなくなってしまう。むしろ、地下世界に落ちたときにこそ、本質的な自分の光が感じられるんですよね。

その起点になるのが「妄想」だし、その妄想の先には、北極星のように道しるべになってくれる「ビジョン」がある。ですから、問題は「降りる機会」をどう活かすかなんじゃないかなと思いますね。

山口 みんなそれぞれ妄想をもっているはずです。あとは、人から非難されることを怖がらずに、個人個人が自分の妄想を掲げられるようになればいいですね。私自身も、自分の妄想を語ったことで、似たような妄想をもった人とつながれたという経験があります。

個人が抱えているビジョンを心のなかで圧殺せず、口に出して言える世界になれば、個人と個人のつながり方ももっと変わっていくのではないかと思いますね。

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(対談おわり)