現実の一つは、経済と安全保障の境界が非常に曖昧になったことです。戦争はもはや、軍隊が武力を使うだけではなく、サイバー攻撃のようなものもあります。兵器であっても、従来よりも技術的要素に左右される面が大きくなっています。その結果、あらゆる技術が安全保障に関わるところで使われるリスクをはらむようになった。

 技術が発展した結果ではありますが、安全保障的な視点に立てばある種の貿易への規制が必要になってきたといえます。元々WTO(世界貿易機関)やその前身のGATT(関税および貿易に関する一般協定)でも安全保障的に懸念のあるものは、通常の経済原則を当てはめない考え方がありました。

 もう一つの現実は、経済のグローバル化がハイパーグローバル化といわれるレベルにまで拡大した結果、先端技術や知的財産の貿易、それを支える企業への投資などについて、国の覇権という視点が出てきたことです。安い衣料品や石油がグローバル貿易の中心だった間は、こういう論点はあまり目立ちませんでした。それが最先端の通信機器や、高い技術力を求められる素材などが幅広く売り買いされるようになると、米国のように産業政策や経済的な覇権と安全保障を一体化して考える動きが出てくる。

――ハイパーグローバル化とはどういう考え方ですか。

 元々は米ハーバード大学ケネディ・スクールのダニ・ロドリック教授が使った言葉です。経済のグローバル化と国家主権、民主主義の三つは同時に追求できず、どれか一つが犠牲になる「トリレンマ」に陥るという考え方です。グローバル化そのものは経済現象ですが、経済関係が非常に複雑になった結果、国家主権に関わる安全保障にも大きな影響が出るケースが増えてくるのです。エコノミック・ステイトクラフト(国益のために発動する経済政策)と呼ばれるような考え方は昔からありますが、この時代にまた出てくるのはごく自然なことです。