日本企業は「貿易の武器化」が不可避な時代にどう振る舞うべきかPhoto by Yoko Akiyoshi

長引く米中対立は激しい関税合戦や、中国ハイテク企業への禁輸措置など、自由貿易の世界にきしみをもたらしている。米国の対中強硬姿勢の根底には、新たな大国の台頭が自国の安全保障を揺るがすという強い警戒感が常にある。国益を実現するために発動される貿易・経済政策は、硝煙のない紛争における「武器」のようなもの。両国と経済的に深い関係を持つ日本にとっては、その攻撃の方向と打撃の度合いを慎重に見守る必要がある。いったいなぜ、こんな事態になったのか。東京大学名誉教授の伊藤元重氏に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ)

「政治と経済は別物」という
ナイーブな議論が通用しない

――安全保障や国益の観点が、経済活動に求められることが増えています。

 原理原則から言うと、経済と安全保障や政治は分けて考えるのがよい。自由な貿易が企業活動を促進するし、技術革新も活発化させます。他国との経済的な関係が深まれば、安全保障の寄る辺にも結果としてなり得ます。安全保障の手段として、経済制裁や貿易管理みたいなことをなんでもかんでもやってはいけない。これが経済側から見た基本です。

 ただ従来の「政治は政治、経済は経済」というナイーブな議論だけでは通らない現実が出てきている。このことは経済をやる人間も認識し始めています。