日本企業は「貿易の武器化」が不可避な時代にどう振る舞うべきか米中対立の背景について語る東京大学名誉教授の伊藤元重氏 Photo by Y. A.

 そしてハイパーグローバル化では安全保障以外にも、さまざまな面で議論が生じます。移民を受け入れ続けて、先進国の社会は維持できるのか。グローバルマネーがどんどん動いているけれど、リーマンショックに象徴されるように、金融の仕組みそのものに疑問があります。経済のグローバル化について、いま一度踏みとどまる必要があるんじゃないか。そう考える人がいっぱいいるわけです。こういう中で英国のEU(欧州連合)離脱のような大きな出来事も起こっています。

 だから経済と安全保障も、完全に分けて議論はできません。ハイパーグローバル化した世界で、日本だけ純粋な経済活動をすることは不可能です。米国から対中政策への協調を求められるような場面が避けられませんから、しっかりとした論理的根拠と準備が必要です。

経済圏分離は現実味乏しいが
中国にとってより痛手になる

――米国がこのまま強硬な対中政策を進めれば、最終的にはグローバルなサプライチェーンが米中間で分断しかねない。いわゆる二つの経済圏のデカップリング(分離)を懸念する声もあります。

 デカップリングは議論としては面白いけれど、現実にはちょっと考えにくいでしょうね。米国はおそらく、中国なしでもやっていけると思います。日本や欧州との関係があればね。一方で中国はなかなか難しい。世界経済から切り離されていけば、特定の企業や産業が倒れることもあるでしょう。ファーウェイ問題に端的に表れているように、米国がどの程度強く(制裁を)決意しているかによって、影響の出方が異なります。これまでのところ米国の思いは強いので、このまま米国から切り離されていくと、中国の成長が減速することはあり得ます。中国経済の状況については私を含めて、懸念を持って見ている人は多いと思います。中国経済に大きなマイナス影響が起こり得る以上、デカップリングは現実化しないのではないでしょうか。