◎正馬語録(心の健康管理に役立つ、森田正馬の心に響く言葉)
(9)初一念:「ハッと自分のことに気がつく。これが初一念である。続いて良い気分だなと思えば第二念、これが悟りと思えば第三念。初一念からの連想、思考を経ると、種々の誤解や迷いが入り、もはや悟りではない。物に驚き、喜ぶとき、その刹那には、自分そのままであるが、ハッと我に返るとき、それが初一念である」

【解説】自分は死を恐れる・生の不安がある、という立場から世の中を見るときに、その我情に支配されるがため、諸行無常・是生滅法(*万物はすべて変転し生滅するもので不変のものは一つとしてない)ということを考えるのさえも恐ろしい。つまりなんとか、自分の都合の良い安心のできるように、曲げて判断をしようとして、ここに種々の縁起や御幣かつぎ(*縁起を気にすること)が起こる。或いは、自分に陰鬱・悲観の気分の苦痛を感ずるものがあるとする。このときには、その人がこの苦痛から脱しようとして、楽天主義を工夫し、世の中の事実を曲げて、自己の安心を得ようと努める。ここに種々の判断の迷妄が生じる。このようなとき、もし我々が深く自己を客観的に観察して、真に自己が死を恐れるものであるという感情の事実をつきとめ、或いは自分の陰鬱の本性を捉え得たときには、そこで初めて、正しい人生観を得、自己をも外界をも、如実に正しく判断することができると思うのである。禅の方で、初一念から次第に連想の起こるに従って、迷妄となるというのは、自己の立場と外界との関係を明らかにすることのできないことから起こる迷妄を、次第に重ねていくからのことではないだろうか。(『森田正馬全集』(白揚社)第7巻274-275ページより引用、要約)

◎ワンポイント解説
 今回の患者さんのケースでは、「もう仕事には戻れない」「生きている価値もない」という絶望感に対し、休養や薬物療法といったうつ病の基本的な治療に加えて、森田療法的養生指導によって自然な回復を助長してゆきました。診察の中では(1)「かくあるべき」の考えから離れ、「~たい」から出発するように促すこと(初一念)、(2)過去を悔やみ未来を憂えながらも、きょう一日の過ごし方を工夫し充実させていくこと(今に生きる)、(3)思考や感情を無理にコントロールせず(あるがままにおいて)、行動を通して生の実感を回復させること(外相整えば内相自ら熟す)を繰り返し呼びかけました。

 タレントの名倉さんが、うつが悪化して『引退』などを考えてしまう前に休養したことは賢明な判断だと思います。病気の間は、重要な判断を先送りすることが大切です。休養期間は2ヵ月ということですが、あまりその期間にとらわれずに養生を続け、仕事量の適切なコントロールや周囲のサポート体制を整えた上で、満を持したタイミングでの復帰を目指してほしいと思います。

◎次回予告
『中村 敬「森田療法式 心の健康法」』は、今回を持ちまして最終回とさせていただきます。次回は続編としまして、森田療法のエッセンスを導入して治療の幅を広げている他診療分野のパイオニア医師たちをシリーズでご紹介させていただきます。