会議で発言を
コントロールできるか
そうはいっても、大組織になればなるほど、大きなビジネスになればなるほど、さまざまな要素が影響し、組織全体、ビジネス全体としての見込みと実績の乖離を小さくすることは至難の業だという声が届く。
そして、乖離を小さくできるかどうかは、長年の経験と勘が大きく左右するので、誰でも簡単にできるものではないと思っているビジネスパーソンが実に多い。しかし、見込みと実績の乖離を小さくすることに、確かに効果のある演習方法はある。20年来リーダーシップ開発演習を実施してきて、見極めた方法だ。それも、特別の準備もいらず、毎日のように実施できる方法だ。
それは、例えばミーティング参加者が1人ずつ自己紹介をしたり、発言をする場合、何番目に発言するかの計画と、実際の発言の順番を記入していくという方法だ。発言の計画と実際の順番の乖離が小さい人ほど、見込みと実績の乖離が小さいという相関関係がある。そんなことで?と思われるかもしれないが、長年、私が観察してきて見い出したやり方である。
1回だけのデータでは「たまたま他の人に先に発言の機会を譲った」「他の人に先に発言するように促されて、予定外だったが先に発言した」というような、本人の意思とは関係のない要素に影響されたということもあるだろう。しかし、十数回程度のデータを集積すると、相当程度、その人の普段の姿が現れてくる。
計画通りに実行することに執着する意欲と行動が伴っている人は、発言の計画と実際の順番の乖離が小さく、見込みと実績の乖離も小さい。しかし、発言の計画と実際の順番の乖離が大きい人は、見込みと実績の乖離も大きいという傾向がある。
もちろん、他の人に譲る、他のメンバーと調和する、環境の変化に身を任せるということも、ビジネス活動の中には必要だ。したがって、計画と実際の順番の乖離が大きいからといって全てがダメだと申し上げるつもりはない。乖離が大きいということは、柔軟性に富んでいるというプラスの側面もある。しかし、こと見込みと実績の乖離を小さくするという観点からは、発言を計画通りに実施することが有効だ。たったこれだけのことを継続していけば、その能力が高まる。
組織は、個々人の総和だと私は考えている。ビジネス全体を構成するのは、個々のビジネス活動だ。計画通りの順番で発言するかどうかという、たったひとつの行動であっても、それらが集積すれば、組織全体の見込みと実績の乖離を小さくすることにつながるのだ。東京電力グループのみならず、多くの企業に必要なスキルのひとつだと感じる。