ダニ:志士イデオロギーの最たるものは、明治初期に維新志士を靖国神社で祀ることにした政府の決定からもわかります。

 :幕末の志士とは、ある種の暴力、テロを通じてでも物事を変えていこうという人たちですよね。

 ダニ:山縣有朋や大山巌ら何人かの志士が陸軍将校になったように、明治は確実に幕末を引きずっています。その後、西南戦争、張作霖爆殺、二・二六事件など、政府や軍上層部の意向を無視し、兵士が暴動、暗殺、クーデターへと突き進んでいった源となるバグが、明治初期にすでに埋め込まれていたのです。

 :司馬さんは、『この国のかたち』で「統帥権によって日本は魔術の園にいた」と書いています。

 ダニ:私も一番大きな間違いは、統帥権体制のあり方だと思っています。明治の国家は急いで作られたため、日常的に問題が発生し、解決するために新しい構造を作らなければなりませんでした。急いで動くと、間違いが起きるものです。同じ統帥権を置いていたドイツには軍事的内閣がありましたが、日本では作られませんでした。ドイツの場合、軍事内閣で皇帝は軍の統制ができましたが、日本の天皇の統帥権は違います。天皇の命令でなければ軍隊を動かせないことになってはいますが、天皇が意思を直接示すことはまず考えられません。実際には軍上層部が天皇の意向を想像して軍を動かしました。この危ない志士のアイデアが、明治政府に受け継がれたのです。こうした軍の二重構造の「バグ」が独断実行を是とする第2の「バグ」を生み、際限のない侵略と暴動を繰り返すバグとなっていったのです。

 :改めて思ったのは、戦前の日本はファシズムではなく、内部がバラバラの状態だったということ。唯一、天皇陛下のもとで一つにまとまっているように見えたけれど、かなりセクショナリズムが強かったのではないか。そこがナチスドイツとは大きく違うのかもしれません。

 ダニ:「植民地」としての朝鮮半島は天皇直属です。同じ「植民地」でも台湾は内閣直属でした。

 :そうですね。今、日本人はどうして台湾が親日的なのに韓国が反日的なんだろうと考えますよね。でもそれは、台湾統治と朝鮮半島の統治の組織構造の違いを考えるとわかります。

 ダニ:当時の大日本帝国憲法のわずかな権利すら民衆に与えず、総督が天皇の代理人として弾圧できたのが朝鮮でした。朝鮮では総督が代々陸海軍大将であったのに比べ、台湾では大正8(1919)年から昭和11(36)年まで貴族院議員の政治家が続きました。

 :天皇直属となれば、時の政府も口出しはできません。台湾と朝鮮半島でどうしてこのような統治の違いになったのかが不思議なのですが、天皇統治とはある意味、統帥権が不可侵であるのと同じです。最終的に同化政策の時は、君たちは日本の本土にいる人たちと変わらない、ということになります。天皇の愛顧をみんなにあげるというのは大変な恩恵であるという発想です。それを天皇統治では一方的にどんどん進めていくことになり、朝鮮半島の日本に対する評価が変わってくるわけです。

(構成/編集部・三島恵美子)

AERA dot.より転載