大人気『わけあって絶滅しました。』シリーズの著者・丸山貴史さんへのインタビュー企画。前編では、天敵のいない離島で大型化し飛べなくなってしまった「ドードー」の話を伺った。しかし日本には、飛べなくなったにもかかわらず絶滅の危機を逃れた鳥がいるという。そこで今回は『続 わけあって絶滅しました。』にも登場する、“わけあって生きのびた”飛べない鳥「ヤンバルクイナ」について聞いた。
沖縄島に生息する飛べない鳥「ヤンバルクイナ」
――『続 わけあって絶滅しました。』には「わけあって生きのびた」動物も多く紹介されていますね。その一つがヤンバルクイナ。名前だけは聞いたことがありましたが、本を読んで初めて飛べない鳥だと知りました。すごく珍しい鳥なんですよね?
ええ、ヤンバルクイナは沖縄島北部の山原(やんばる)地方だけに生息する固有種です。くちばしと眼、足が赤く、お腹に白黒の縞模様があるハデな色彩で、珍しいだけでなくかっこいいですよ。
そもそも、ヤンバルクイナをはじめとするクイナ科の鳥は飛ぶのが嫌いらしく、捕食者の少ない島で暮らすと飛ばなくなることが多いんですね。ヤンバルクイナも足は筋肉ムキムキで走るのは得意なんですが、小さな翼は木から飛び降りるときに広げる程度なので、羽ばたく筋肉もあまりついていません。
もともと数は多くなかったと思いますが、明治時代に沖縄島でハブを退治するためフイリマングースが放たれたことで、ヤンバルクイナは絶滅の危機に陥りました。このマングースはハブをほとんど食べず、むしろヤンバルクイナなどのより捕まえやすい生物を襲ったからです。
――なるほど。ハブ対マングースという表現も沖縄島から生まれたものだったんですね! 前回のドードーもそうでしたが、鳥は天敵の少ない離島にいると空を飛ばなくなってしまうことがあるんだとか?
はい。ヤンバルクイナも敵の少ない島で大型化し、翼が退化して飛べなくなりました。ですが、ドードーのように太ってのろまになったわけではありません。
これは、沖縄島にはもともとハブがいるため、「まったく襲われる心配がない」というわけではなかったからだと思います。昼行性のヤンバルクイナは、ハブが活動する夜間は木の枝の先にとまって眠ります。これも夜行性のハブが木の枝を伝って襲ってきた場合に、振動を感じて逃げやすいからでしょう。
先ほど「クイナ科の鳥は飛ぶのが嫌い」と言いましたが、他の島に定着したクイナ科の鳥には、飛べなくなったことで絶滅したものが少なくありません。ドードーと同郷のモーリシャスクイナもそうですし、タヒチクイナやハワイクイナ、レイサンクイナなども絶滅しました。ですが、ロードハウクイナやタカヘ、カグーなど、飛べなくなったものの絶滅していないクイナ科の鳥もいます。
動物保護という考えが広まったのは、ここ数十年のこと
――ドードーは絶滅したのに、ヤンバルクイナは生き残った。彼らの違いは何だったのでしょう?
時代の価値観の違いも大きいでしょうね。ドードーが発見されたのは16世紀末ですが、ヤンバルクイナが発見されたのはつい最近の20世紀後半です。
近代までのヨーロッパでは、「ほかの生きものはすべて人間のために存在している」と考えられていました。18世紀末になってようやく、イギリスで「動物の権利」というものが語られはじめましたが、「希少動物の保護」という考えが広く一般の人たちにも理解されるようになってきたのは、ここ数十年のことなんです。
だから、もしドードーが発見されるのが300年くらい遅ければ、保護されて生き延びることができたかもしれませんね。
――なるほど……。そもそも動物の保護という考えが広まったのはそんなに最近のことなのですね。